春宵の候、三寮お泊り交流会｜リアクション

春宵の候、三寮お泊り交流会

●星ヶ丘寮へようこそ・２

　桜と理緒が、日和の部屋に案内されたのは、午後３時、ティータイムにちょうど良い頃合いだった。
「ウエルカムドリンクのお茶を入れて……お気に入りのお菓子を準備して……」
　日和がおたおたともてなしの準備をしてくれている間、桜と理緒は部屋の調度品などを眺める。
　アンティークなものやゴシックなものが好きな日和の部屋は、豪奢すぎず、それでいて品のよいチェストやテーブルが置かれていた。
「一つ一つに手間暇かけた仕事をしているのが判るわ……備え付けの調度品なんか多分、一つ何百万とかいう世界よね。壊したら大変なことになりそうだから触らないでおこ……」
　理緒は伸ばした手を引っ込めて、またため息をついてしまう。
「私、相部屋をひとりで使ってるからそれなりに広々としてラッキーって思ってたけど……今、自分の部屋はうさぎ小屋かって気持ちよ」
「私も。……あ、このコスメケース、可愛い」
　アクセサリー作りが趣味の桜は、圧倒されると同時に、デザインの意匠やさりげなく置かれた小物に目が向く。ヴァイオリンを嗜む日和らしく、音楽や音符に関するモチーフのものもあって興味深い。
　しばらくすると、日和ではなくメイドさんの落ち着いた声が二人を呼んだ。
「お客様。お茶の用意が整いました。どうぞこちらへ」
　テーブルの上にはハーブティとカラフルなマカロン。
　それから申し訳なさそうに上目遣いをする日和がいる。
　メイドさんが一礼して下がる。
　どうやら、日和がおろおろする間に、全部メイドさんが準備してしまったらしい。
「……えっと、メイドさん達の手際がいいだけでその……私が何にもできないとかじゃないからね！」
「はい」
「わかってます」
　理緒と桜はくすくすと笑いながら席に着いた。

　白磁のカップにお茶を注いで、窓から差し込む穏やかな午后の日差しを楽しむ。
　日和はマカロンを口に入れながらふたりに尋ねる。
「寝子島は素敵なお店も多いからどこのお菓子を買うか悩んじゃう。おすすめとかある？」
「んー、ソムニウムとかＲａｔｏｎとか？」
「星ヶ丘にパイ専門店あるよね。あそこも気になる」
　それから桜は、先ほどから興味津々だったアクセサリーの話を持ち出し、理緒は流行りのコスメについて語り、三人はくつろいだ時を過ごす。
「そうそう。よければヴァイオリンで一曲おもてなししていい？」
　ふたりが喜んだので、日和は愛用のヴァイオリンを手にとった。
「星ヶ丘寮はいろいろ設備がそろってるから、部屋の防音とかもしっかりとされててね。これが私にとっては嬉しいかな。他じゃ迷惑になるからできないけどここならすぐに楽器がとれるから」
　軽く調弦して、弾き始めたのはモーツァルトの名曲「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」。
（美しすぎる音色……）
　桜は、くらくらする思いで、日和の演奏に聞き入っていた。
（メイドさん……生演奏のクラシック……これが星ヶ丘寮の暮らし……）
　理緒も改めて実感する。
（とてもじゃないけど、自分のグラドルとしての稼ぎでは住めそうにないわね……）
　これが普通な日和は、アンコールに応えてもう一曲、流行りの恋歌のロマンティックなメロディを奏でる。
　メイドさんがほどよいタイミングで、空になったカップにおかわりのハーブティを注いでくれる。
　日和の＜音楽のちから＞も無意識に発動して、桜も理緒もとても穏やかな気持ちになった。
　充実したセレブな午后であった。