春宵の候、三寮お泊り交流会｜リアクション

春宵の候、三寮お泊り交流会

●桜花寮へようこそ・３

　夕食は、美咲紀のリクエストで親子丼となった。お味噌汁の他に小鉢が三つもついている。キュウリのお漬物。ほうれん草のおひたし。タケノコの鰹節和え。どれもおいしそうで、成長期の寮生の健康に気を遣っているのが分かる。
「わー！　丼物って、食堂でご飯食べてるって感じがします！　食べる前に写真とってイイですか？」
「いいけど……普通の親子丼だよ？」
　あおいが戸惑いがちに言うと、
「それがいいんです！」
　と、美咲紀は目をキラキラさせてシャッターを切った。美咲紀の住む星ヶ丘寮では、食事は主にフレンチとイタリアンのレストランなので、こういう食事が却って新鮮なのだ。
「寝子高新聞で紹介したいなぁ。とてもおいしそー。人気メニューはなんですか？」
「カレーは鉄板。麺類も鉄板。ひな祭りとかクリスマスとかの特別メニューも人気あるかな」
「あおいちゃんは寮のメニューで何が好きなのですか？」
「私は、ご飯とお味噌汁と焼き魚みたいな、おうちで食べてたみたいなご飯が好きかなあ」
「鰹節料理もおいしいよ」と夏朝も会話に交じって、タケノコの小鉢を持ち上げた。
「シュー君ちの猫さんが喜びそうですね！」
　美咲紀が修を見る。
「そうだな」
　星ヶ丘寮はペット飼い放題なのだ。夏朝は、星ヶ丘寮のそこはいいなあ、と思う。
「猫さんは……たまに来るといいなぁ」

　一方、猫鳴館住まいの雅樹と綾花は、食事が出るということそのものに感動していた。
「桜花寮ではちゃんと寮に食堂がついてちゃんとした食事が出るんだな……！」
「ええ。食堂で作ってもらえるのは憧れますね」
　猫鳴館にも台所はあるが、基本自炊である。
　何人かでわいわい作って食べるのも楽しいが、寮暮らしする前の、ただいまーと家に帰るとお母さんが夕食を作って待っていてくれる光景が恋しくなることもある。
（まあ、こちらもいろいろ事情があって猫鳴館に住んでるから、最初から覚悟はしているけど）
　雅樹は父親との不仲が原因で、高校入学と同時に猫鳴館へ家出（？）した経緯がある。
　今の暮らしはかつてよりはましだと思うし、なにより気楽だ。
　しかし、やはり原風景なのだろうか。
　家庭的なご飯をみんなでわいわい食べる桜花寮での夕食は、それだけで胸を打つものがあるのだった。

　食事が終わるころ、左右が厨房から顔を出した。
「みなさまー。夕食はいかがでした？　私たちも手伝ったんですのよー！」
　左右の後ろからエプロンで手を拭きながらトシコさんも現れる。
「みなさんようこそ桜花寮へ。親子丼のリクエストもありがとうね～」
「ごちそうさまです。親子丼、とっても美味しかったのです！」
　美咲紀がお礼を述べれば、綾花もほっぺたに手を当てて。
「毎日こんなご飯が食べられるなんて……桜花寮の皆さんが羨ましいです」
「そう言ってもらえると作り甲斐があるわね～。ところで今日は特別に、みんなにプレゼントがあるのよ」
　トシコさんに「ほらほら」と促され、倫理子がおずおずと顔を出した。
　両手で持った籐籠に入っているのは、倫理子と左右が朝から準備して作ったクッキーとマドレーヌの詰め合わせ。ピンクのリボンで口を縛った白いレース柄の小袋に入っている。
「久しぶりにしてはよくできたと思うんだけど」
　倫理子が言うと、左右は堂々と胸を張る。
「星ヶ丘寮のシェフにも負けない出来栄えですわ！」

　みんなは焼き菓子の小袋をひとつづつ貰うと、お礼をいって、男子寮と女子寮のお部屋へと分かれた。