春宵の候、三寮お泊り交流会｜リアクション

春宵の候、三寮お泊り交流会

●桜花寮へようこそ・２

　萌を空き部屋に寝せて、ユウに付き添いを任せる。
　萌の容態は……すうすう寝息を立てて寝言を言ったりしているので大丈夫だろう。

　一同は引き続き、夏朝とあおいの案内で女子寮の見学をすることにした。
　北にＡ棟、南にＢ棟、その間に主に小さめのＣ棟があるという構成や、部屋のつくりは男子側と同じ。
　一番違うのは匂いだろうか。女子寮だからと言ってフローラルでクリーンというわけではないが、男子寮で嗅いだ男臭さは感じない。
　夏朝は休憩を挟みながらＡ棟５階に移動して、２０畳ほどの広さがあるカーペット敷の一室へ皆を招き入れた。そこにはソファや椅子、テレビがあり、数人の女子がくつろいでいた。本棚には少女漫画やニャンプなど少年誌で連載している漫画の単行本、ファッション誌、占い本やライトノベルなどが並んでいる。
「ここは、オープンスペース。寮生が自由に使える場所で、Ａ棟とＢ棟の５階に一室ずつあるよ」
　夏朝はそう紹介し、続いて皆を屋上へと案内した。
「わ。気持ちいい……！」
　気づけば時刻は黄昏時。
　桃色に染まりはじめた空の下、綾花は心地よい風をいっぱいに胸に吸い込む。
「夜は施錠されちゃうけど、昼間は出入り自由なんだよ」とあおいが言った。
「屋上で洗濯物を干すと、とてもよく乾くんだ。三寮祭でも何かやってもいいかも？　とは思うんだけど……」
　夏朝が言う通り、物干し台で白いシーツを取り込む寮生たちの姿がある。
　今日は天気が良かったので、気持ちよく乾いたことだろう。
「過ごしやすそうな設備と環境ですね」
　綾花はそう思わずにはいられなかった。
「猫鳴館も意外と住めば都ですけどね」
　山側を見れば、九夜山の縁の赤く染まりつつに聳えるのが見える。麓に寝子高があり、校庭で部活をしている人たちがいるのも見える。校舎の裏手には猫鳴館があるはずだが、その姿は森に埋もれて見えない。

　あおいと並んで沈みゆく夕日を見ながら、修はいつぞやのことを思い出していた。
「実は、桜花寮には泊まった事があるんだ。切り分けられた『桜花寮』だったけどね」
「そうなんだ」
　あのときと建物の構造は同じなのだが、敵が襲って来て篭城という極限状態だったし、昼も夜も暗かったので印象は違う。一番違うのは、やはり匂いかもしれない。この桜花寮は、人がいて日常を営んでいる匂いがする。
　美咲紀が海側を指さして夏朝に尋ねる。
「向こうがＢ棟、真ん中の背の低い建物がＣ棟でしたっけ？」
「うん。あそこだけ４階建てで、主に上級生が住んでるんだ。それぞれのお部屋に風呂やトイレがあって、Ａ棟やＢ棟よりプライバシーは守られるけど、オープンスペースがないのが残念かな」
「恵御納さんはＣ棟でしたよね？　お部屋、見てみたいです！」
「え、僕の部屋？　ご、ごめんね、実は結構ちらかってて……」
　夏朝は桜花寮生の方をちらちら見ながら、やんわり断った。
（言えない……部屋は散らかってないけど、実は内緒で特殊な猫さん飼ってるなんて言えない……！）
　桜花寮はいちおうペット禁止なのだ。
　焦っているとあおいの呼びかけがあった。
「みんな、そろそろ食堂に戻ろっ？　トシコさんが腕に縒りを掛けて、夕ごはん作ってくれると思うよ！」

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