圖書館ノ怪｜リアクション

圖書館ノ怪

「私、霊にとり憑かれてるんです……」
「へえ。というと？」
「じ、実は……」

　薄羽白露。陰陽師を名乗るこの男をインチキくさいという人もあれど、彼の持つ人懐っこさが信頼を与えるのか、相談をしに訪れる人は多い。公園のベンチに陰陽師ルックスの男と寝子高の制服を着た少女が並んで座っている様に、通行人が二度見する。
　少女曰く、図書館で何かの本を手に取ってから、悪夢を見てばかりなのだという。夢の中ではいつも現代とは違う場所に立っていて、途方に暮れていると馬車に轢かれて目が覚めるのだそうだ。

「ねこったーでも話題になってて……私だけじゃないんだって思って……」
「そのねこったー、見せて貰っていい？」

　白露にそう促されて、少女は自分のスマホのスイッチを入れ、ねこったーを開く。タイムラインを流れる呟きの一つをタッチして、白露に見せた。

「一番バズってるのはこれなんですけど、他にもいくつかあって……」

　内容は怪談なのか事実なのかよくわからないよう書かれているが、少女の言ったことと筋はそう変わらない。しかし少女の言う夢と違うのは、夢で目覚めてから何事もなく街を散策しているというところだ。悪夢ばかりではなく、楽しそうな内容のものもある。
　少女が画面を動かし、『本　幽霊　夢』で検索すると、似たような報告が一覧となって現れた。

「たぶん、地縛霊か何かだと思うんです……助けてください……」

「最近多いなあ、この手の相談」

　若くして亡くなった書生の幽霊の話を、白露に持ち掛ける人間は少女だけではない。幾件目にもなる相談を終えた白露は顎を撫でつつ、考える。

「……ふむ」

　荒事は遠慮願いたいところだが、荒事でないなら話は別だ。白露は腰を上げ、幽霊を成仏させるべく動き出した。

「シューくん！　事件です！」
「知ってるよ」

　ねこったーの写った画面を見よと言わんばかりに八神修に向けるのは椿美咲紀だった。美咲紀は修の様子に肩を落としつつ、表示されるつぶやきをタップして言う。

「シューくん、この小説家の名前見たことあります？」
「いや」

　ネット上で囁かれる怪談の共通点は、田山徳二郎という人間の著した本を読むと夢の中で明治時代から大正時代の日本へ行ってしまうことだ。

「無名に近い大正時代の書生の作品の中へ精神が引きずり込まれる事件とみて良いと思うのです」
「美咲紀にしてはよく考えたな。えらいえらい」
「そうじゃなくて、文章創作する人間としてちょっとわかるんですよ」

　美咲紀は妙に熱のこもった調子で語り出す。

「自分の紡いだ物語を色々な人に読んで欲しい、楽しんで欲しい！　そういう気持ちで動いているんじゃないでしょうか！？」
「成程」

　修も修とて、美咲紀のいう事は否定せず、どこか納得したような様子で頷いた。

　事件に対して動き出す寝子高生は修と美咲紀だけではない。綾辻綾花もまた、事件を解決しようと動く一人だった。

「図書館にあって……」
「その話、詳しく聞かせてもらっていいですか？」

「古本屋で見た！」
「ありがとうございます」

　実際に夢の世界に行ったという人の話を耳にした綾花は、早速図書館へと向かう。本の特徴は聞いた。本好きの綾花である。見覚えのない作家だから、すぐわかるという確信と自負を抱いて、書架から噂の幽霊の本を探し出した。

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