あなたの図書室｜リアクション

あなたの図書室

「ああ、面白かった」
　結衣香が本を読み終えあたりを見回すと、宿題を終えた修が『猫びより』（猫の雑誌）を手にほっこりしていた。
「どこの猫も可愛いなぁ。我が家の猫が一番だけどね」
「可愛いですね。それって、飼い主はみんなそう思いますよね」
「その通り。オヤバカの心理だよ」
　はは、と修は笑った。

　図書室の閉室時間丁度に、尊は蛍光ペンのチェックつきの本を読み終えた。
「……何だ」
　結論を言うと、本当に『何でもないモブ』に、蛍光ペンが引かれていた。
「無害であったはずなのに、この理不尽にこみ上げる怒りと敗北感は何だ……！」
　心を抑え、カウンターに向かって、尊は綾花に話しかけた。
「すまない、この本は落書きされていたので、交換してもらいたい」
「知らせてくださってありがとうございます。新しい本が入ったらお知らせしますね」
「いや、次の人がこんな思いをしなければいいんだ。こんなに理不尽な思いは久しぶりだ……！」
　そう言って図書室を去る尊を見送りながら綾花は、
（いったいどんな落書きがされてたんでしょう……？）
　と首をひねるのだった。

「おつかれさま」
「あっ、珪先生。おつかれさまです。今日の分のアンケートです。期日が来たら纏めてリストにしますね」
　やってきた早川先生に綾花がアンケートを渡す。
「ありがとう。……いろんな意見があるね」
　それをパラパラとめくりながら先生は言った。
「全ては難しいかもしれませんがなるべく叶えたいですね。これを機に利用者が増えてもらえると嬉しいです」
「そうだね」
「アンケートをもとに決めるのは珪先生ですか？」
「いや、今度の図書委員会で話し合うことにしよう。予算の都合なんかについては僕が意見を言うけど」
「珪先生がアンケートにどんな本を書かれたのか気になります」
　表情を伺う綾花に、早川先生は笑みを浮かべた。
「それは結果が出てからのお楽しみにしようかな」
「えっ、そうなんですか」
　残念そうな綾花の表情にほだされたか、先生は口を開いた。
「名作と言われる本はすでに図書室にあるけど、その本がきっかけで読書が好きになるような、そんな本を入れられたらと思うよ。絵本でも漫画でもいい」

　他の生徒たちが退室した後、綾花と夏朝は片付けして掃除を済ませた。
「お疲れさま。それじゃ鍵を閉めるよ」
　室内を点検して、早川先生が鍵を閉める。
「お疲れさまでした」
「お疲れ様でした……失礼します」
　綾花と共に先生に別れを告げて、夏朝は思う。
　(沢山の人が来てくれて,皆が、望む本と出会えて、本を楽しめる……）
　当たり前のようにそこにあるけれど、いろんな出会いがあり癒しになる図書室は、特別な場所だと思う。
（そんな、みんなが過ごせる素敵な図書室にできるよう、僕も頑張りたい）
　図書委員長として決意を固める夏朝。
　その傍で、綾花も今日の出来事を思い返しながら帰途についた。

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あとがき

担当マスター：天村花海
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ご参加ありがとうございました。
自分の高校の図書室を思い出しながら、懐かしく書かせていただきました。
公共の図書館は広く明るいところが多いですが、学校の、人が少ない図書室の古い本の書架の間の、どこか迷子になりそうな暗さが好きです。

たくさんの思いが詰まった図書室の話は難しいな……と思いつつ、また挑戦してみたいなと思います。
では、またのご縁をお待ちしております。

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