あなたの図書室｜リアクション

あなたの図書室

「入れて欲しい本のアンケートです？　もちろん書きますとも！」
　椿美咲紀のポニーテールが揺れた。
　図書室の常連の美咲紀は、図書委員の綾花相手に話しながら、なるべく沢山書こうと細かい字でアンケート用紙を埋めていく。
「図書館に求めるのは、自分で買いそろえるにはそれなりにご予算が必要で、保管するのに広い場所が必要、長期間所有するほどではないけど参考資料にしたい、というような本でありまして、なおかつ携帯性に優れる物の方が望ましいのです」
「確かにそうですね」
　綾花が頷く。
「例えば教科書に載るような文豪達の全集ですよ。これは文庫版だと借りたときの携帯性も抜群なのです」
「持ち歩くことを考えると、重い本は借りるのに抵抗がありますよね」
「あるいは文豪の研究読本とか。歴史の研究書も捨て難いのです。大昔のことだから古い資料で問題ないだろうと思ったら大間違いなのです」
「そうなんですか……」
「色々な資料から戦国時代でも新事実が出てきて武将の人物像がかなり変わってきていますですよ。桶狭間合戦で『信長・六角』同盟が存在したと見られる文書が公開されたりですね。新書版も多いので図書館予算にも優しいです」
「それはありがたいですね」
　綾花の相槌に、美咲紀はまだまだ思いの丈を語り続ける。
「それと百科事典ね。全面改定された新版を入れて欲しいですよ」
「百科事典はありますけど、新版ですか……」
　綾花は図書室に並んでいる百科事典を思い浮べる。
　いつのものかはわからないが、大分古いはずだ。
「予算的にはちと厳しいかもですが。電子辞書ではパラパラめくって気になる項目拾い読みとか出来ないし。紙媒体の方が漠然とした資料さがすのに適しているのです」
「私も、やっぱり紙の本が好きです」
「そうなのです、電子版では紙の手触りや匂いなんかは感じられないのです」

「あと寝子高新聞のバックナンバー入れて欲しいです」
「ね、寝子高新聞ですか？」
　意外なリクエストに綾花は驚く。
「紙面ＰＤＦで保管してあるのでいつでも作れるですよ。部員以外でもバックナンバー閲覧できるとイイでしょ？　文芸部冊子もあると嬉しいですにょ」
「本のアンケートとは違うかもしれませんが……文芸部にも相談してみますね」
「ああっ、やっぱ足りない。軽いリクエストだけでももう紙面いっぱいなのです」
　美咲紀はがっくりと鉛筆を置き、熱意をしたためたアンケート用紙を綾花に託すのだった。
　

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