ラブ☆部活＆同好会～運動部の春～｜リアクション

ラブ☆部活＆同好会～運動部の春～

【陸上部(8)―夕食（食事編）―】

　そうして、夕餉の支度は整えられた。
「それじゃあみんな今日はお疲れ様だったな。腹一杯食って身体を休め、また明日から頑張ってくれ！」
　副部長の桐野正也の声掛けで、待ちに待った食事の時間が始まろうとしていた。
　家庭科室には、部屋いっぱいに香ばしいカレーの匂いが広がっている。
「皆揃ったかー？　カレーはたくさんあるから、たくさん食ってくれなー！　じゃあ、頂きますだ！　あ、お残し許しまへんでー！！」
　今日の料理長（シェフ）の宇佐見望月の音頭で、彼らは一斉に食前の礼をとる。
「「「「いただきます！！！」」」」
　言うが早いか、家庭科室に皿をつつくスプーンの音が幾重にも響いた。
「ウマい！　ウマすぎるのだ！　あいかわらず、もっちゃん先輩の料理は美味いのだ！」
「……そ、そう？　あはは、俺様超ウレシイナー！」
　意中の人である真央に真っ向から賞賛され、望月は顔を赤くして声を上ずらせていた。
「にに？　垣根さん、その指どうしたの！？」
　と、驚きの声を上げたのは七音侑だった。彼女の視線の先には包帯塗れになった垣根瞳の細い手と指先があった。
「……あ……その……これは…………包丁で……少し切ってしまって……」
「へー、意外だなー。もしかして、不器用？　や、七音だったら、手ェボロボロにしてんのもなんか頷けるケド」
「にに！？　春彦くん、それはどういう意味に！？」
「え？　だって、なんかそういうキャラっぽいじゃん？」
「そういうキャラってどういうキャラに！？」
「あの……みなさん……仲良く食べましょう……？」
　自分を間に挟んでやいのやいのする楢木春彦と七音侑に、瞳はオロオロとする。
　なお、この二人は決して仲が悪いわけではなく
「おー、君達、仲良いのはいいが、食事中は静かにな」
　と、正也から制止が入れば、二人は、
「はーい、きりのん先輩」
「ウス、すんませんす」
　と仲良く頷く。
　そんな二人の姿を見て、
「ね、もしかしてあの二人って……」
「あ、やっぱりそう思う？」
　などと後輩女子達がひそひそ何かを話している。
　志波拓郎は、もういつもの眠たげな顔でカレーをすくっている。
「んん？　拓郎ちゃん、起きてるのだ？　疲れてるのは真央ちゃんもだけど、合宿はこれからが本番なのだ！」
「……え？　あ、うん。そうだね、後木さん」
　真央の声にハッと我に返り、拓郎は微笑んで頷いた。
　椎井莉鳥は、思いの外、高跳びの後輩に懐かれてしまっていた。
「……ええ、そうね。もう少し踏み込みのタイミングを早く意識すればいいと思うわ」
　食事中にも、あれやこれやと話しかけられて、それに律儀に応じている。
「……ああ！　ここに愛しのまゆ先生がいてくれれば、俺が愛のカレーをごちそうしたのに！」
「あー、はいはい。俺が顧問で悪かったなー」
　冴木竜司がいつものごとくまゆ先生への愛を叫べば、それに浅井幸太が苦笑しながら突っ込みを入れる。
「…………」
　そんな去年と同じようで、少し違う合宿の光景を少し寂しげに正也は見つめている。
（……こうして、みんなと合宿ができるのも、今年で最後なんだな……）
　そう考えると、正也は胸がきゅっと締めつけられる切ない気持ちになるのだった。

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