ラブ☆部活＆同好会～運動部の春～｜リアクション

ラブ☆部活＆同好会～運動部の春～

【陸上部(5)―走り高跳び―】

　桐野正也は、新入部員達に対し、道具の場所や手入れの仕方などを面倒見良く指導していた。
　正也は、走り高跳びをやっているが、持ち前の面倒見の良さと不憫属性のおかげで、副部長として色々と部員達から頼りにされており、後輩の扱い方にも慣れていた。
「……よし、だいたいこんなもんかな。一応、副部長として、全体の補助とかもしないとだから、あとは頼むな、椎井」
「はい、わかりました」
　ご指名を受けたのは、やはり走り高跳びをやっている椎井莉鳥だった。
「じゃあまずは私が跳んでみせるから、よく見ていて」
　クールにそう言うと、莉鳥は適正な高さにセットしたバーに向かって走る。
　風をきって、大地を蹴って駆ける。
　そして、利き足で踏みきり、跳躍。
　そこから見事に着地してみせると、「おおっ」とどよめきと拍手が起きる。
「凄いなー」
「先輩かっこいいー」
　聞くともなしに、そんな言葉を聞いて、
（……先輩、か）
　と莉鳥は何ともいえない気持ちになる。というのも、じつは莉鳥は一年留年しているので、寝子高にはもう二年いることになるが、ここで後輩という存在ができるのは初めてなのだ。
「だいたいこんな感じかな。それじゃあ未経験の子と経験者の子に別れて練習を始めましょう」
　そんな戸惑いはおくびにも出さずに、莉鳥はてきぱきと指示を飛ばしていく。
「経験者の子には、さっそく本物のバーを使ってどんどん練習してもらうわ。先輩達のアドバイスには真摯に耳を傾けて」
　莉鳥は、反発を覚悟でまず最初にそう言っておく。
「「はい！！」」
　予想外に、新入生達は素直だった。
「じゃあこっちはよろしくね」
　と、同級生達に言い残し、莉鳥は続けて未経験者の指導にあたることにする。
「さて、じゃあ貴方達にはまず利き足を決めて貰うわ」
「先輩、利き足って？」
「踏みきりをするとき――つまり跳ぶときの足よ。実際に跳んでみればどちらが跳びやすいかわかるはず。まずは自分の利き足を確認して」
　それが終わると、さっそくクリアランスと呼ばれる装備を身に着けて、実際に跳んでもらう。
　初心者は危ないので、本物ではなく、練習用のゴムのバーを使ってもらうことになる。
　実際にバーを跳ぶ前に、まずは短い助走から、地面に描いた目印に向かって跳んでもらう。
「踏み込むときの姿勢がよくないわね。飛ぶときのフォームを意識してみて。そうすれば、自然と後から高さはついてくる」
　もちろん欠点を指摘するだけでなく、改善する方法も提案する。
「おお、ビシビシいってるなー」
　と、そこに顧問の浅井幸太がやってきた。
「浅井先生、私のジャンプも見てもらえますか？」
「ああ、もちろん」
　二つ返事で頷いてくれる浅井に感謝しつつ、莉鳥もまた自分なりの改善点を見つけるべくバーに向かって跳躍する。
「どうでしょう？」
「うん、なかなかいいと思うぞ。そうだな、改善すべき点があるとすれば……」
　浅井の助言に、莉鳥は真摯に耳を傾ける。後輩にアドバイスは素直に聞けと言っている手前、自分もそうあるべきだ。
「……わかりました。意識して、改善に取り組んでみます」
「ああ。でも、努力は大事だが、無茶はし過ぎるな」
「はい」
　そして、莉鳥もまたより上の段階を目指してバーに向かって走る。
　この日、長く続けた練習で、莉鳥はまた一つ上の段階が見えてきた――そんな気がした。