回転寿司いこっ！｜リアクション

回転寿司いこっ！

　――とある平日、夕方（その２）

　時は少し遡り、同日の午後３時過ぎ。
　木天蓼大学の大学院に本土から通っているマリエッタ・ラシュリエは、
「はあ……疲れちゃったし、お腹も空いたわね……」
　と、街を歩きながら、心許ないお腹を労わるようにそっと撫でた。
　今日は、用事をこなす為に寝子島を訪れたマリエッタ。
　予定では、その用事は昼までには終わるはずだったのだが、
「まさか、こんなに長引くなんて……ご飯、どこで食べよう？」
　という具合で、用事は予想外に長引き、昼食にありつけないまま現在に至っていた。と、その時。
「……あ」
　何を食べようかと辺りに気を配っていたマリエッタの目に、ねこ寿司の看板が映る。
　そして、マリエッタはそのまま、吸い寄せられるようにねこ寿司へと入店した。
（先ずは、と……）
　空いている席に案内されたマリエッタは、薄めに入れたお茶を一口すする。
　温もりが、お腹の芯にまで沁み渡って、ほう、と息が漏れた。
　一息ついてレーンの方を見遣れば、ぴかぴかの鯛が流れてくるところ。
「わ、いいもの発見。最初に食べるのにはちょうどいいわね」
　淡白なネタから、というのは通の間では定番のチョイスだ。
　皿を取り、醤油を少しつけて、１貫目を口に運ぶ。
　引き締まった身を噛み締めれば、癖のない、上品な甘みが口の中に広がって……。
「美味しい……生き返る、ってこういう感じかしら」
　１皿食べ終えて、マリエッタは次の皿へと手を伸ばす。
　タコにイカ、次いで、マグロやサーモン。
（次は……ウニ。うん、そうしましょう）
　そろそろ……と、濃厚なネタに移っていくマリエッタ。
　ウニの濃厚な甘みと海苔の風味のコラボを味わえば、思わずうっとりとしてしまう。
　その後も、とろサーモンやアナゴなど濃い味のネタを口に楽しみ、
（そろそろさっぱりしたものを……）
　と、口の中をリセットすべくホタテへと手を伸ばす。
（濃厚なネタが続くと、飲み物を必要以上に飲んじゃうものね）
　もぐもぐとホタテの優しい甘みを味わえば、幸せ色の息が漏れた。
　その後も、マリエッタの手はまだまだ止まらない。そして、暫くのあと。
「……ちょっと、食べすぎたかな」
　人心地ついたあと皿を数えると、なんとその数１６皿。
　普段は７～８皿程度で済ませるのだが、調子に乗って食べ過ぎてしまった。
　昼ご飯を食べていなかったので、いつもよりもどのネタも美味しく感じられてしまって、つい。
（でもおいしかったし。これだけ食べても２０００円いかないのってリーズナブルよね）
　そんなことを思いながら、会計ボタンを押す。
　レジへ向かう最中、マリエッタは学校帰りらしい寝子高生達とすれ違った。
「だって、修くんの方がくるくる回って踊り出しそうなんだもーん♪」
「あはは、言い得て妙だね、ののこちゃん」
「いやっ、俺はいつも通りだって！」
「シュー君ムキになっちゃってー」
　会話の切れ端が、耳に入る。
　マリエッタ自身は寝子高出身ではないが、自然、自分の高校時代のことが思い出された。
　口元が、緩く弧を描く。
　支払いの折引いたくじは、当たりだった。
　マンボウくんのボールペンを手に、マリエッタは晴れたような気持ちで店を出たのだった。

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