下着泥棒の怪｜リアクション

下着泥棒の怪

　水上桜は今、リベンジに燃えていた。
　寝子島のもれいびの間で今、噂になっている下着泥棒の事件。桜は元々それに関わるつもりなど毛頭なかった。
　だが、この間、用事があった為、止む無く旧市街へ行ったのだ。誰かに付いてきて貰えば良かったのだが、大丈夫だと思いつい一人で向かったら、被害にあってしまったのだ。

　年頃である桜は例え相手が不思議生物であろうと下着を盗まれた事にショックを受け、傷心して、凹んだ。そして、傷付いた心はやがて一つの想いを産み出す。即ち復讐の想いである。
　その復讐の想いは、やがて燻ぶり始める。深く昏く黒く。要は気が済むまでぶん殴ってやるという事なのだが。

「これでも一応、水泳部にも所属してるんだから！　追いつめてベコベコに凹ましてやるんだから！」

　絶対に復讐してやるという気概を持って、桜はまずは情報収集をした。
　その結果、お寺とか神社のお札を持っていれば眠気は耐えれるという事が判明。なので、既に何枚か購入済みである。それを服に忍ばせて置き、武器として特殊警棒を用意。これであの憎き毛玉を殴ってやるのだと。

「よし、行こう！」

　桜の作戦としてはこうだ。自らを囮として適当にぶらつく。それも特に警戒をしないようにする。あの生物から見たら、またカモが無防備に来たくらいに思われるように。
　今回はあの眠らせる能力の対策は取っているので、それでも不覚を取る事はない。

　通る場所も、自分が被害に遭った辺りを中心にする。必ずしもいるとは限らないが、その辺は死角がそれなりに多い。あまり賢くない印象ではあるが、それでも死角から実行する辺り、多少は考えているのだと桜は思った。

　自分が囮としてきている事がバレている可能性もあるし、何より一度襲った人物を襲う保証もないので、もし別のところから女性の悲鳴が聞こえてきたら、直ぐに駈けつけるつもりだった。
　だが、直ぐにそんな必要はないと気付く。

（んっ？）

　そう。この感触に桜は覚えがあった。あの時と同じ感触だ。そう、こうやってあの時も自分の足に巻き付いてきたのである。
　しかし、今回は眠気は全く来ない。やはりお札の効力に間違いはないらしい。

　桜は携帯にメールが来たフリをしてその場で止まる。携帯を出して画面を見ながら、尻尾がどこから伸びているのか把握する。
　お札がある為、未だ桜は眠らないわけだが、この生物は特に尻尾を外して逃げる様子は見せない。既に場所は完全に把握した。そっと特殊警棒へと手を伸ばして掴んだところで、一気に振り向き尻尾の出元へと向かう！

「ぴっ！？」

　桜がいきなり振り向いたかと思ったら特殊警棒を振り上げて自分の方へと向かってくる。そんな事などその生物は夢にも思っていなかったらしく、毛を逆立てて飛びあがった。
　以前、薄れゆく意識で見た通り、黒くてまん丸な毛玉みたいな見た目をした生物だ。桜の下着を奪った個体かは不明だが、そんな事は彼女には関係なかった。

　年頃の娘の下着を奪った罪。今こそ晴らすべき時である。
　しかし、その生物も黙って殴られるわけにはいかないと、慌てて跳ねて逃げ出した。

「逃がさないわよ！　運動部の運動能力、なめんなー！」

　そのまま特殊警棒を握りしめたまま、桜はその生物の後を追うのであった。

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