スクール水着は世界を救うんだってばマジで！｜リアクション

スクール水着は世界を救うんだってばマジで！

【２】

　４月の陽気に誘われて、お出かけしようと街まで出て来た上穗木千鶴。
　星ヶ丘の駅にやってきた彼女の目にふと止まったのは、一枚のブラジャーだった。
「ん？　あ、あれは、ぼくの！？　な、なんで、お気に入りのブラがあんなところに……だ、誰かに見られる前に回収しないとっ」
　高校生が身につけるにしてはなかなかにセクシーなブラジャー。
　慌てて回収しようと飛びつくも、微妙に届かない。
「も、もう少し……あっ！」
　届きそうなところで、ひゅるりと風が吹き、ブラは指先をかすめて空へ。
　ブラに集中しているせいで気づいてないが、千鶴は今、スク水姿だった。
　本来なら周りの人も気づかないのだが、ブラを追いかけてしまったがため、その姿は丸見え。
　ざわざわと周囲の人が遠巻きに彼女を見ている。
　とその時、影がひとつ、千鶴の前に飛び出した。
「HAHAHA！　水着シーズンにはちょっと早いんじゃないかい、ちーちゃん！」
「え？　信彦くん？」
　高らかに笑いながら現れたのは、全身から目立ちたいオーラを放つ八十八旗信彦。
「なんだかよくわからないけど、困ってるレディは放っておけないね。とう！」
　無駄にポーズを決めてジャンプ。パシィとブラをキャッチして着地を決める。
「さ、どうぞ。それにしても、着替え中にハプニングでもあったのかな？」
「ハプニング？　よくわからないけど、ありが……」
　お礼の言葉を言いかけて、ハッと千鶴は目を見開いた。
「な、ななななんてかっこをしてるんだい、信彦くん！」
「かっこ……？」
　ふと、視線を落とした信彦は次の瞬間、飛び上がった。
「わあああーーー！！　なっ、なんでスク水なんか着てるんだーーーっ！！？」
　そう、信彦もまた身体にぴっちりフィットのスク水姿だった。
「き、きみがそこまで変態だとは思ってなかったよっ」
「ファァーーー！！」
　スパーンと千鶴のビンタが気持ちの良い音を立てた。
「ち、違うんだ！　落ち着いてくれ、ちーちゃん！」
「落ち着けるわけがないこと山の如しだよ！」
「こ、これはそのHENTAI行為などではなく……そ、そう！　今のトレンドなんだよ！」
「トレンド？」
「そ、そうさ！　ストレッチ素材を活かしたクールかつ大胆に攻めたデザインで人気なんだ！」
　時期的にも他人様の視線的にも色々な意味でクールであることは間違いない。
　きょとんとする千鶴に、ここぞとばかりにまくしたてる。
「ちーちゃんはトレンドに疎いんだね、今や欧米の紳士達はスクミーズスタイルなのさ！」
「い、いやいや、欧米を巻き込むんじゃないよ！　おかしいでしょ！」
「あ、やっぱり無理あるかい……？」
「ま、まあ、いいよ。大丈夫だよ。人にはいろいろな趣味嗜好があるものね。ぼ、ぼくは応援するよ」
「お、おーい！　可哀想なものを目で見るのはやめてくれるかい！！」
　信彦お得意のノリで乗り切る作戦はあえなく失敗した。
「と、とはいえ、ちーちゃんだってスク水だろう？」
「え？」
「ここはひとつ、ナイスペアルックということで今日のことは忘れて……」
「えええっ！？　な、なんで！？　なんで、ぼくスク水なんて着てるの！！？」
「お、おや、気づいてなかったようだね……」
「わああああああああーーーーーーっ！！！！！」
　茹で上がったタコのように真っ赤になって、千鶴は駆け出した。
「ふふ、ちーちゃんも花も恥じらう乙女だね。なんてキュートなんだ……って！？」
　信彦も慌てて、千鶴を追って走り出した。
「こんな格好の俺をひとりにしないでくれるかーい！！　待って、ちーちゃん！！」