それいけ蚤の市！～欲しい物は何ですか？～｜リアクション

それいけ蚤の市！～欲しい物は何ですか？～

　チラシを片手に、伊藤恵美は意気揚々と蚤の市を行く。
「へぇ、これが蚤の市なのね。中々いい雰囲気♪」
　蚤の市を訪れるのは、これが初めての恵美である。
　今日は楽しませてもらうわよ♪　と恵美は早速、絵画を扱うスペースへと向かった。
　同人作家として活動する恵美は、ジャンルは違えど『絵』には日頃から親しんでいる。
（絵画も、私が描くものとは種類は違うけど好きなのよね。さて……）
　様々な絵画が所狭しと並んでいるのを、軽い足取りで見て回る恵美。
　じきに恵美の目に留まったのは、夕暮れの海を描いた風景画だ。
　立派な額縁に入った絵を青空に掲げて、恵美は黒の双眸を煌めかせた。
「うん、気に入ったわ！　これは購入よ！　玄関に飾りましょう」
　自宅の玄関を、黄昏時の色に染まった海が彩る様子を夢想する。
　機嫌良く会計を済ませて、恵美は今度は、古書を扱うスペースへと足を向けた。
（うーん、難しそうな本が並んでるわね……）
　本好きでもある恵美、「掘り出し物があれば購入したい！」と古書コーナーを訪れたのだが、
（もしかしたら、これは結構、探すのに難儀するかも）
　という次第で、覚悟を決め直して、１冊１冊本を見て回ることに。
　ふわりと吹いた風が、古書の埃っぽいようでいてどこか甘いような香りを運び、
（あ、そうそう、古書と言えば……）
　と、恵美の頭に、古書に纏わる過去の出来事を思い起こさせた。
　恵美は以前、とある古本屋で、子供の頃大好きだったアニメの設定資料集を見かけたことがある。
（しかも、当時若手で、今も現役でバリバリやってる人気ベテラン声優さんのサイン入りだったのよね）
　それはそれは、魅力的な逸品だった。
　それなのに、その設定資料集は、恵美の手元にはない。
　サイン入り、という魅力溢れるポイントが、そのままプレミア価格に繋がっていたのだ。
（お金が足りなくて、家に取りに戻ってる間に売れちゃってて。あれは悔しかったわ）
　あの本、欲しかったな……と思いながら目の前の本を見定めていた恵美の手が、ぴたと止まる。
「て、これ！」
　思わず、声が跳ねた。
　数多の本の間から顔を覗かせたのは、今まさに想いを馳せていたその設定資料集。
　慌てて、頁を開く。
　そこに例のサインを見留めて、恵美は目を瞠った。
「嘘でしょ！？　え？　何？　どういう事？」
　あの時買った人が手放したのだろうか？　なんてぐるぐると思考しかけて、
「て、そんな事はどうでもいいわ！　これは神様がくれたチャンスよ！」
　と、恵美は設定資料集（サイン入り）をぎゅうと胸に抱える。
　ドキドキしながら会計を済ませに向かえば、提示されたのは、
「え？　これも５００円でいいの？」
　という具合で、蚤の市のルールにしかと沿った額だった。
（信じられない。こんな事もあるのね♪）
　絵画と設定資料集を携えて、恵美は帰路に着く。
　今日はいい夢がみられそう♪　と、足取りを弾ませながら。

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