【星幽塔】第二階層　廃墟に哭く声｜リアクション

【星幽塔】第二階層　廃墟に哭く声

「き、機械です～！
　グルグルと目を回して、メリィに縋りつくリリエル。
　不安そうなプニを、シルヴィアが抱きしめた。
「おお、すっご……壊さないようにしないとねぇ……」メリィが呟く。
　
　巨大なシリンダの中に、ぎっしりと機械構造をひしめかせたのが、時計塔の内部だった。
　その大きな動きは既に停止しているが、振り子が軋みを上げたり、調子はずれのオルゴールが響きわたったり、部分的にはまだ構造は生きているようだった。
　――完全に機械が止まっているわけじゃ、ないみたいだねぇ。
　胡乱な目を向ける由貴奈。
　時計塔の内部に、罠が存在している可能性は、以前から示唆されていた。
「わっ！」　
　よろけた数名が、足元の出っ張りをを踏み抜く。
　軋みを上げて、四方八方から振り子が襲い掛かってくる。
　――危ない！
　だが、振り子は犠牲者の顔を抉る寸前で急停止。そのままバラバラと崩れ去る。
　間一髪。溜息をつくのは由貴奈。
　ろっこん「ヘンドリック・モーメント」を発動し、機械関係をコントロール。
　――大分、ガタが来てるみたいだねぇ。
　単に停止の命令を与えただけなのに、機構がまるごと破損してしまった。
　――予想できない動きをするかもしれない。危険だな。
「リリエル、大丈夫だよ！」
　青ざめた顔のリリエルに、決然とメリィが言う。
「何か策があるんですか？」
「それっぽい気配がしたら避けるけど、万が一引っかかっちゃったら、あたし自慢の瞬発力で避ける！」
　能天気なメリィの言葉に、一同がずっこける。
（まあ……）
　高度な柔軟性を保ちつつ、臨機応変に対応……。
　どこかで聞いたことあるかな、と桜は頭を掻く。
　カッコ悪いことは苦手な彼女。それでもそんな風に、たまには場当たりでやってみるのも悪くない。
　
　
　――なかなか、古代文明の連中というのも性格が悪いな。
　階段を上り切った修が呟く。
　大半の罠の機構はもはや機能していなかったが、踏み抜くと壊れる床、突如倒れ掛かってくる柱、偽の部屋など、時計塔は様々な罠に満ち溢れていた。
　倒壊する壁は月が魔星の力で処理。
　床を踏み抜けば、夏朝がろっこんの力を秘めたワッペンを飛ばし、重量操作で衝撃を抑える。
　メリィの自称脳筋の、よくわからない迫力が罠を吹き飛ばす。
　陰険な場所に仕掛けてある罠を誰かが作動させそうになったら、防御と回避に徹したシルヴィアがフォロー。
　百戦錬磨の一同。見事に息の合ったトラップ対策。
　あらかじめ入念に警戒しておいた一同でなかったら、あえなく退散を余儀なくされていたかもしれない。
（――）
　時計塔内部の、壮麗と言っていい機械。
　それを守るために用意されていたはずの、さまざまのトラップ。
　もはや半端にしか駆動しないそれらを眺める、一同の心中は複雑だった。
――まさか自分たちが、こんなふうな末路を迎えるとは、思っていなかっただろうに……。
　正体不明の破壊によって、人の住めぬ領域となった階層。
　かつてあったに違いない、確かな人の営みが、あるとき不意に中断された。
　罠にしても、それにひっかかる愚か者がいて成立するものだ。
　それが込み入って、陰険であればこそ、作り手の歪んだ情熱がそこに滞留しているような気がして、だから言い知れぬ哀れさ、むなしさが感じられる。
――古代都市の人間も、寂しかったのかもしれないね。
　だれかがポツリとつぶやく。
　ん、と由貴奈は頷き、右の掌を翳す。
「だからといって、罠に引っかかってあげる義理はないけどねぇ」
　ゴーストに弓矢を射かけつつ、ぼそりと由貴奈が呟く。
　感傷に浸っている暇はない。
「おばけになるのはやだー」
　飛び回ってゴーストと罠を躱すメリィの声が響いた。
「見ないようにすれば大丈夫、見ないようにすれば大丈夫……。なるべく目をあわさないように……」
　顔を俯けたままつぶやきつづけるリリエルを庇いながら、一同が扉を開けると――。

「うわっ、根性悪い……」
　