【星幽塔】第二階層　廃墟に哭く声｜リアクション

【星幽塔】第二階層　廃墟に哭く声

「魅力アーップ！」
　ポーズをとって、ミーティアは星の力を解放。
　彼女の星座、おうし座のアステリズムの庇護を受けた『魔星の力』。
　ミーティアの内側から光が煌めきわたり、彼女の挙措ひとつひとつを麗しく輝かせる。
　手を振り上げれば舞のよう、足取りは白拍子。
　ふわりふわりと漂うような動きに七色の風が吹き、蝶が舞い、花が咲き乱れる。
　悪戯なファニーフェイスに、駘蕩とした艶さが加わり、目が離せない。
　魂のないゴーストたちもふわふわと心惹かれ、この世の心地ではない。
「こっち、こっちだよ」
　手招きをして、ミーティアは屋根から屋根へと伝う。
　彼女の妖しい魅力に引き込まれたゴーストたちが、ミーティアの追尾に加わっていく。
　つかず離れず、彼女はゴーストたちを誘導する。
　水路から飛び上がってきた骸骨たちも、ミーティアの魅力にからめとられていった。
　
（銃が効くか、分からないもんね）
　彼女の得物は、アンデッドには効果が薄そうだった。
　おそらく相手の数は多い。魔力の弾丸を用意すると、コストがひどいことになりそうだった。
　周囲の様子を見るに、それなりに物理攻撃も効果がありそうだ。。
　だが、思ったよりも魅力による干渉の力が大きい。。
　味方の進路を確保できることもできるし、このままのほうがよさそうだ。
　
　ミーティアは即座に判断した。
　
「こっち、こっち～」
　手招きをして、投げキッスをするミーティアに殺到するゴースト。
「握手会は順番だよ！」
　ふわりと交わして、また別の屋根に走り去る。
　傍目には鬼ごっこのようだ。
　明らかに追われることを楽しんでいるのだが、おそらく冷静な戦略によるものだ。
　
　誘導されなかったゴーストは、亮が仕留めていく。
　たとえゴーストとは言え、魅了で心を奪われている相手を背後から襲うのは忍びない。
　亮のファイターとしての、律儀さだった。
　
　状況が動いたのを見て、由貴奈は動きを止める。
　一際高い尖塔の上、彼女は一機のクロスボウを取り出す。
　どちらかというと華奢なその成りは、本質を裏切る。
　彼女自身が開発した弩弓『クラップ・アロー』。
　特殊な矢を使用するそれは、通常のクロスボウをはるかに超える破壊力、貫通力を有する。
　その分、反動は極めて大きく、普通の射手では打ち出すことすらままならない。
　矢をつがえ、由貴奈はクッキーを齧り取る。
　一時的に増幅された腕力で、彼女は弓を天に向けて射出。
　月輪を射抜くかと思われた矢は、完璧な軌道を描いてスケルトンの頭部に落下。
　即座に完璧な軌道計算を行った、由貴奈の頭脳の冴えであった。
　感情のないゴースト、骸骨たちがあきらかに恐慌をきたす。
　夜の闇から迎撃される恐怖、さらに躱しようのない直上からの一撃。
　身動きの取れない骸骨を、亮の炸裂イモが粉砕していく。
　たった一撃で戦場を掌握する、由貴奈の弓の技。
　
　最短の攻撃で相手を制圧する仲間たちをみて、夏朝は攻撃を調整していく。
　彼女が今回選んだのは治癒の力。
　アンデッドは、癒しの力がダメージソースとなる。
　攻撃により相手を「仕留める」より、そちらのほうが自分の性にあっているように思えた。
　周囲を囲むアンデッドに光を照射すると、彼らの苦しみの顔が一瞬柔らかく揺らいで、光へと変じていった。
　効果は高いが、なにしろ数が多い。
（近距離の方が効果が大きいのは――癒しの力だからかな？）
　先行きも考え、どれほどの力が治癒で可能なのかを考える。
（おそらく、焔で焼いたりしたのと同じくらい……）
　攻撃としては、他のものよりとびぬけて効果的というほどでもない。
　相手を苦しめずに葬れるという意味では気は楽だが、それだって気休めだ。
　ひょっとしたら一思いにやられるほうが気楽かもしれない。いずれにせよ、自分の免罪にはならない。
　
　なんだか楽しそうなミーティアに、重さをコントロールするワッペンを渡しつつ、歩を進めていく。
　戦場の状況を確認したサキリ、無駄な争いにかまける暇はないとばかり、軽やかにゴーストを瞬転でかわし、夜の中に身を躍らす。
　背後から飛来するゴーストを、亮は炸裂イモで捌きつつ、先を急ぐ。
　