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【星幽塔】第二階層 廃墟に哭く声
不意に切れる幻想。
「ああ、なんて悲しい！
何を泣いたらいいかわからない！
王妃様も可哀そう、街の人々も、ハゲも可哀そう。
王妃様の一人息子も可哀そう。
でも、だれが悪くて、だれが可哀そうなのか、みんな忘れてしまった！
忘れたことが悲しい。哀しいから泣かずにいられない！
でも、なんで悲しいか、それがわからない！」
――そうだ。
悠月は、歌いながらも心中にどよもしていた疑念を言葉にする。
「なぜ、鎮魂歌なんだ？」
バンシーの歌声は、此方への死の予告とばかり思っていたが……。
（案外――廃墟になった街のために泣いていたのかもしれないな……）
「歌の意味を取り違えるところだったな」
再び深呼吸する。
守護者たる騎士。そのイメージが、ゆっくり剣を下す。
だが、その時一際痛烈な音撃が、悠月を見舞う！
みぞおちを貫かれ、喘鳴に声がかすむ。
皆が悲しかった。皆が苦しんだ。
だから、自分だけ救われるなんて許されない。
ここで、自分は嘆き続けなければならない。
嵐のように巻きおこる悲しみの声。
一際大きく揺れた時計塔、その天井の梁が、ぐらりと傾いで、悠月の上に――
「――！！」
「プニ！」
咄嗟にはじけ飛んだプニが、悠月を庇って覆いかぶさる。
刃物には強いが、スライムの体は打撃には脆弱。プニとて無傷ではいられない。
それでも、仲間を守りたいという必死の思いが彼女を跳躍させた。
慌ててシルヴィアがプニを抱きしめる。
脆弱な可愛らしい体。それでもその奥には仲間を思う心が秘められ、彼女も立派な戦士なのだ。
悲しみゆえに、また傷つけた。
バンシーの中で、また苦しみが膨れ上がる。
逃れられない、悲しみの連鎖――。
「……」
夏朝は立ち上がった。
その悲しみなら、わかる。
その悲しみなら、自分も分かち合える。
立ち上がり、手を伸ばす。
その唇から漏れ出す、聖歌とも鎮魂歌とも違う、けれど確かに、神への愛に満ちた歌。
讃美歌。
神の偉業をたたえ、神への愛を示す歌。
カトリックの聖歌隊という組織そのものが神の威光の独占という一面を担っていたのに対し、宗教改革において広まった讃美歌は、皆が神を賛美することを目指した、敬神の一般化を目指したものだ。
母親が子供を愛し、子供が母を愛するように、神を愛し、愛を信じること。
当初はカトリックに対する激しい内容を孕んでいた讃美歌は、やがて語り継がれる民謡や民話に基づいた、温和で柔らかなものへと変わっていき現在でも愛唱される。
ドイツ人とのハーフである夏朝、記憶のどこかでその歌声を耳にしたことがあったのかもしれない。
優しい響きを、心にとめておいたのかもしれない。
プロの技量に及ばないかもしれないが、虚構のものに感情を吹き込むのは演劇も歌も同じ。
なにより彼女の必死の思いが、歌に精彩をあたえ、力強いものに昇華していた。
（ゴーストもスケルトンも……バンシーも……
第二階層で亡くなった命なら……
もう、苦しまなくていい――！）
――♪
軽やかに、ミーティアも歌い始める。
先ほどの荘厳な聖歌ではない。もっとやわらかで、親しみやすい。
母親が娘に唄いかけるような。友人同士がふざけ合って歌うような。
五百年の年月を重ねてなお、爛漫さを失わないでいられる、ミーティアゆえに歌える暖かな歌声。
――♪
リリエルとメリィが、立ち上がって歌い始めた。
彼女が元凶なら、倒したいと思っていた。
それで水路橋が守れるなら、倒したいと思っていた。
でも――。
（それで）
（それで、何かができるのなら）
――♪
シルヴィアもそれに合わせる。
懸命に全身を震わせるプニ、歌声は無くても、全身で歌を表現してた。
みつびの歌声も、柔らかく、どこか懐かし気に響く。
（あたたかいミルクを飲んで――）
（眠る前のお話みたいに、優しく歌ってあげる）
「おやすみなさい。明日もいい日だよ」
歌声の最中には、嘆くことを忘れたバンシーが一人。
顔を上げた彼女の髪に、水色のリボンが巻かれる。
「きっと、似合うと思うんだ」
笑顔を浮かべ、ミーティアの腕が、華奢なバンシーの体に回された。
死者の体はひどく冷たく、その奥底は振るえていた。
だがその慟哭は、これまでのものと違っていた。
そして悠月が、朗々と鎮魂歌をうたい始めた。
怒りも悲しみもない。ただ純粋に。
そして弓に光の矢をつがえ、バンシーの胸元に狙いを定めた。
応じて桜も、星の力を最大に開放し、胸元に矢を向ける。
由貴奈のメテオ・フロウが、皆の祈りを込めて、星の弾を弾いた。
時計塔に、歌声が満ち溢れた。
歌わないものも、心に詩編を思い浮かべ、心の中で歌を念じた。
「ああ、なんて悲しい！
何を泣いたらいいかわからない！
王妃様も可哀そう、街の人々も、ハゲも可哀そう。
王妃様の一人息子も可哀そう。
でも、だれが悪くて、だれが可哀そうなのか、みんな忘れてしまった！
忘れたことが悲しい。哀しいから泣かずにいられない！
でも、なんで悲しいか、それがわからない！」
――そうだ。
悠月は、歌いながらも心中にどよもしていた疑念を言葉にする。
「なぜ、鎮魂歌なんだ？」
バンシーの歌声は、此方への死の予告とばかり思っていたが……。
（案外――廃墟になった街のために泣いていたのかもしれないな……）
「歌の意味を取り違えるところだったな」
再び深呼吸する。
守護者たる騎士。そのイメージが、ゆっくり剣を下す。
だが、その時一際痛烈な音撃が、悠月を見舞う！
みぞおちを貫かれ、喘鳴に声がかすむ。
皆が悲しかった。皆が苦しんだ。
だから、自分だけ救われるなんて許されない。
ここで、自分は嘆き続けなければならない。
嵐のように巻きおこる悲しみの声。
一際大きく揺れた時計塔、その天井の梁が、ぐらりと傾いで、悠月の上に――
「――！！」
「プニ！」
咄嗟にはじけ飛んだプニが、悠月を庇って覆いかぶさる。
刃物には強いが、スライムの体は打撃には脆弱。プニとて無傷ではいられない。
それでも、仲間を守りたいという必死の思いが彼女を跳躍させた。
慌ててシルヴィアがプニを抱きしめる。
脆弱な可愛らしい体。それでもその奥には仲間を思う心が秘められ、彼女も立派な戦士なのだ。
悲しみゆえに、また傷つけた。
バンシーの中で、また苦しみが膨れ上がる。
逃れられない、悲しみの連鎖――。
「……」
夏朝は立ち上がった。
その悲しみなら、わかる。
その悲しみなら、自分も分かち合える。
立ち上がり、手を伸ばす。
その唇から漏れ出す、聖歌とも鎮魂歌とも違う、けれど確かに、神への愛に満ちた歌。
讃美歌。
神の偉業をたたえ、神への愛を示す歌。
カトリックの聖歌隊という組織そのものが神の威光の独占という一面を担っていたのに対し、宗教改革において広まった讃美歌は、皆が神を賛美することを目指した、敬神の一般化を目指したものだ。
母親が子供を愛し、子供が母を愛するように、神を愛し、愛を信じること。
当初はカトリックに対する激しい内容を孕んでいた讃美歌は、やがて語り継がれる民謡や民話に基づいた、温和で柔らかなものへと変わっていき現在でも愛唱される。
ドイツ人とのハーフである夏朝、記憶のどこかでその歌声を耳にしたことがあったのかもしれない。
優しい響きを、心にとめておいたのかもしれない。
プロの技量に及ばないかもしれないが、虚構のものに感情を吹き込むのは演劇も歌も同じ。
なにより彼女の必死の思いが、歌に精彩をあたえ、力強いものに昇華していた。
（ゴーストもスケルトンも……バンシーも……
第二階層で亡くなった命なら……
もう、苦しまなくていい――！）
――♪
軽やかに、ミーティアも歌い始める。
先ほどの荘厳な聖歌ではない。もっとやわらかで、親しみやすい。
母親が娘に唄いかけるような。友人同士がふざけ合って歌うような。
五百年の年月を重ねてなお、爛漫さを失わないでいられる、ミーティアゆえに歌える暖かな歌声。
――♪
リリエルとメリィが、立ち上がって歌い始めた。
彼女が元凶なら、倒したいと思っていた。
それで水路橋が守れるなら、倒したいと思っていた。
でも――。
（それで）
（それで、何かができるのなら）
――♪
シルヴィアもそれに合わせる。
懸命に全身を震わせるプニ、歌声は無くても、全身で歌を表現してた。
みつびの歌声も、柔らかく、どこか懐かし気に響く。
（あたたかいミルクを飲んで――）
（眠る前のお話みたいに、優しく歌ってあげる）
「おやすみなさい。明日もいい日だよ」
歌声の最中には、嘆くことを忘れたバンシーが一人。
顔を上げた彼女の髪に、水色のリボンが巻かれる。
「きっと、似合うと思うんだ」
笑顔を浮かべ、ミーティアの腕が、華奢なバンシーの体に回された。
死者の体はひどく冷たく、その奥底は振るえていた。
だがその慟哭は、これまでのものと違っていた。
そして悠月が、朗々と鎮魂歌をうたい始めた。
怒りも悲しみもない。ただ純粋に。
そして弓に光の矢をつがえ、バンシーの胸元に狙いを定めた。
応じて桜も、星の力を最大に開放し、胸元に矢を向ける。
由貴奈のメテオ・フロウが、皆の祈りを込めて、星の弾を弾いた。
時計塔に、歌声が満ち溢れた。
歌わないものも、心に詩編を思い浮かべ、心の中で歌を念じた。
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
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- 2017年10月14日
- 参加申し込みの期限
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- 2017年10月21日 11時00分
- アクション投稿の期限
-
- 2017年10月21日 11時00分
