【星幽塔】第二階層　廃墟に哭く声｜リアクション

【星幽塔】第二階層　廃墟に哭く声

「よく見つけてきたね、こんなもの」
　どてら姿のアヴィケンナが、目を眇めて機械を眺める。
「価値があるのか？」
　修がかつて第二階層を探索した時に手に入れた機械。
「機械仕掛けはいろいろあるけれど、これはかなりの値打ちものだよ」
「何か使い道は……あるの？」
　報告にやってきた夏朝が、話に加わる。
「うーん……機械人形に取り付けてみるとか？」アヴィケンナは顎をしゃくって、部屋の傍らのオートマトンを示した。
　星幽塔最終決戦でアヴィケンナが供した機械人形。
　それらは、アヴィケンナが、海中から引き揚げて改良したものだった。
「拾ったものをくっつけたりすると、変な能力を発揮したりするものもあるみたい。
　――そんなゲーム、寝子島で流行っているんだって聞いたけど」
「カプセルギアみたいなものか」
「もっといろいろ解明しないと、実用はできないけどね」
「オートマトンは貸してもらえないか？」
「うーん、研究くらいなら大歓迎だけど、レアモノだからね……よほどのことがないと使いたくない」
「他に生きている遺跡はないのか？」
「よくわからない。僕も全部を把握してるわけじゃない――悪いけど」
「成程。十分だ」
　要するに、アヴィケンナもわからないなりに、場当たりにやっているらしい。
　しばらく解明には時間がかかるのだろう。
「――ところで、ここはどこなんだ」
「ボイラー室ってところだね」
　第二階層、温泉フロアにほど近い一区画。
　星幽塔内外の客人を迎える温泉を支える、そこは従業員室になっていた。
　リネン室では接客型オートマトンがサウナに据え付ける毛布を準備し、大量の浴衣が古代の洗濯アーティファクトによって脱水処理までされる。
「とはいえ、このボイラーだけは機械任せにできないからね」
　星の力と灯油、それに薪をハイブリッドした巨大ボイラー。
　使用には細心の注意が必要だ。
　計器をチェックし、薪を割って、燃料を補充する。
「みんなも入っていってよ。居残りもいるしさ」
「ステラか」
「居残りを決め込む星の精霊なんて、聞いたことないけどね」
　爆ぜる炎を覗き込むアヴィケンナの顔に、不意に愁いが見えた。
「気を遣わせちゃったね」
「何？」
　夏朝が顔を上げる。
「時計塔。壊さないようにしてくれたんでしょ。別に壊してもいいのに」
「壊さないほうが、いいかなって思ったから」
「――やっぱり曲者だよ」

　
　彼の横顔を見つつ、修と夏朝は一つの疑問が胸につかえるのを感じる。

「この階層には――何が居る？」

　時計塔の最上階で見たあの光景。
　伝えるべきか、どうするべきか――。
　いずれにせよ、今はその時ではない。状況がそろっていない。
　必要な時に、彼が知ることもあるだろう。
　だが、その時はそう遠くないうちに訪れそうだ。
　そんな予感を、修と夏朝は感じていた。
　
　――お疲れ様。
　顔を見せたサキリに、誰ともなく声を掛けた。
　用意周到な彼、事件解決後にもう一度時計塔を訪れていた。
　バンシーが現れた原因は、ここにもあるのではないか――。
　根本的な問題を解決しないと、また同じ悲劇が巻き起こるんじゃないか――。
「死霊たちが、何を悲しんでいるのかも知りたかったしね……」
　言外に意味を含ませつつ、サキリはポケットから何かを取り出す。
「時計――壊れて動かない？」
「こんなものしかなかった。あとは鍛冶屋に持ち込めそうなガラクタかな」
　バンシーの脅威は去ったとは言え、時計塔に罠は健在。
　壊れかけのそれらは、作動したら最後、時計塔もろとも崩壊しかねない。
　瞬間転移をもつサキリなればこそ可能な探索だったが、それでも深入りは避けた。
　そのくらいのものなら、持って行っても構わないというアヴィケンナに、サキリは礼を言った。
　

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