【星幽塔】第二階層　廃墟に哭く声｜リアクション

【星幽塔】第二階層　廃墟に哭く声

　群青色の、夜明けの近い星空に、みつびのアコースティックギターが響き渡る。
　歌が終わったときに、バンシーの姿はなかった。濃厚な死の気配も消えていた。
　事件は落着したのだろう……多分。
　
　歌い足りないといって、時計塔の屋上でギターを弾き始めたみつび。
　皆が黙って耳を傾けていた。
　
　
「たぶんここであった、大きな破滅。彼女はその数少ない生き残りだったのだろう。
　何者かに利用されて、バンシーとして生きる宿命を与えられたんだ」
　
　アンデットに変異してしまった部分を倒して、その魂を浄化する。
　二つながらに異なる仕事をやりとげて、一同は彼女を救ったのだ。
　
　――おやすみなさい
　
　――明日もいい日だよ
　
　みつびの最後の一小節が流れると、海面からゆっくりと光があふれ始めた。
　浄化の太陽。再び死の魔都は眠りにつき、朽ちた姿をとどめていた。
　その時、水路橋の孔部から、盛大に水流が噴き出し始めた。
　霧状の水滴は、朝陽を受けてキラキラと輝き、虹の橋を作る。
「――！？――♪」
　プニが全身を紅潮させて、飛び跳ねる。
　光に包まれた壮麗な水路橋、それが生き物のように水流を跳ね上げる。
、興奮が抑えきれない。
　彼女が初めて見る水路橋。緻密で雄大な姿と、それを守ったのがまさに自分たちであるという感動が、彼女の円形な全身を包んでいた。
　スペクトルが、プニの全身を虹色にきらめかせた。
　プニだけではない。同じ感動を皆が共有していた。
　――ありがとう。
　そっと手を差し伸べてきたのは夏朝。
　プニの果敢な行動があったから、自分は唄うことができた。
　バンシーの心に届く歌が歌えた。
「～～♪」
　プニは震えながら、夏朝へ、シルヴィアへ、そして皆へと飛びついていった。
　言葉はなかったけれど、プニの気持ちは皆に伝わっていった。
　
　（お疲れ様～！　ありがとう～！）
　
　シルヴィアは、そっと手の中のものを見る。
　あの時、不思議な光景を見た後、いつの間にか自分の手に握りこまれていた。
　時が止まった、不思議な懐中時計。
　星の力で動く、奇妙なアーティファクト。
　使い道はわからない。それでも、何かを託された気分になって、大事にもっていることにした。
　
　

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