何色バスタイム｜リアクション

何色バスタイム

■ネロリの誘い

　「STeLLA GIRLS」専属モデルとして、コスメブランド「Sonora」のイメージガールとして、春休みが丸々つぶれる程の撮影から今後の打ち合わせまでと、忙しくしていた城山水樹の、新たなスタートを切った４月はスケジュールに緩みなど出来る事無く怒涛に過ぎていた。
　加えて大学の講義も始まったのだから、ずっと東京に居るわけにもいかず寝子島と東京をひたすら往復する日々に追われている。
　それでも、中心はやはり仕事の方に傾いてきて寝子島の実家、折角模様替えした自室で眠ることはどんどん少なくなり。
　４月下旬な現在は、専属モデル誌の撮影が詰まっていることもあり、仲良しなモデル仲間のコの部屋に宿泊中なのである。

「はー……今日もハードだったわね、って、そっか。友美は別撮りもあって、帰りは明日になるんだっけ」

　すっかり勝手知ったる室内でふと思い返せば、じゃあ遠慮なくお風呂いただこうかなとバスルームへと足を向けた。

　バスタイム。
　それは、同じポーズを取り続けた矢先には次々違う姿勢を要求されるモデルにとって、筋肉をほぐす意味でも欠かせないものである。
　とりわけイメージガールになってからは、一層肌への注意を怠らないようになった水樹は、張った湯船の横でまずはシャワーを浴びた。
　冷えた身体へいきなりの熱い刺激で肌がビックリして傷まないように、やや温かめくらいの温度で全身の血流を促すように。
　スムーズな動作で長い艶髪をアップにすれば、３９度～４０度になっているか湯の温度を確かめてから、いざ。

「んー、やっぱり癒しよね」

　広めのバスタブへ全身を沈ませる。
　長湯するなら半身浴なこともあるけれど、今日は１５分程度で十分に毛穴たちを広げて、すぐ身体を洗えるように。
　持ち前の体力気力で問題なく日々をこなしているものの、やはりハードな過密スケジュールが続けば疲労は蓄積しているようで、じんわりと伝わる温度が強張った筋肉に染み入るように利いている気がした。
　全身浴で肩まで浸かれば、温もりに身をすっかり預けた水樹の瞼が瞳に覆い被さっていく　――。

　夢を見た。
　悠々と２人で入れるバスタブの中、隅っこで互いの肌を寄り添わせ同じ高さに位置する頬をぴとりとくっつけ合い。そのまま囁くように彼と言葉を交わしている。
　頬が離れれば自然と視線が絡み、そのまま唇同士も情熱的に絡み合った。
　次第にキスの隙間から、お互いの吐息に熱が帯びる。
　何度身体を繋げても、飽きるどころか求める気持ちがひたすらに強くなるのを感じて。
　嬉しい反面、場所が場所なだけにうぶな羞恥心も水樹の表情に浮かんでくる。
　それが分かっているから、彼は嬉しそうに瞳細め求めることを止めてくれなそうで。

「……あっ……だめぇ……続きはベッドで……ああ……」

　ばしゃんっ
　大きめの飛沫が上がり、音と崩れた態勢で水樹の大きな瞳がパッチリと開かれた。
　――　今……私………っっ。
　たった今みていた夢の内容に、まるでサウナにでも入っていたかのように恥ずかしさで一気に赤面する。
　先月末、あの時も本当に久しぶりにお休みが重なって、二人の時間を堪能したけれど。
　すぐ翌日から彼は海外への撮影に向かってしまった。
　きっと大きな仕事だろうし、素直に応援しているのは本当。本当、だけれど……。
　連絡を取り合えてはいるものの、同じ日本にいる時より時差を気にする分、頻繁にともいかず。
　長く会えない時間、声すら聞こえない日々が続いたせいだろうか。
　――　……身体が熱い……。
　きっと長湯のせいだけじゃない。昂ったものを抑えるように、水樹は両手で自身の身体をぎゅっと抱いた。
　抱き締めてほしい……抱き締めてあげたい……。
　彼に甘えるようにして水樹は頬を湯につけた。
　上がったら、ちゃんと磨き上げたら、またプロの日課に戻るから、今だけ　――