何色バスタイム｜リアクション

何色バスタイム

■ローズな彼

　「はーーっはっはっは！今日も僕は美しかった……！」

　脱衣所の方からそんな声が響けば、小さなマンション２階の居間にて食後の団欒していた家人たち（父、母、祖父、祖母）一同、『あ。お風呂入るのね』とさらっと察する。
　１階の駄菓子屋「つばき」がすっかりシャッターも締め切った星瞬く時間、花椿涼太郎は明日に向け輝く自分への為、レッツバスタイム☆
　シュルリ、とまるでシルク扱うかのような優雅な動作で衣服を脱いでは、照り輝く素肌が顕わになって。
　見事な生まれたままの姿を、（真面目にお小遣い貯めて自費で購入したと思われる）脱衣所に立てつけられた全身鏡な姿見へ映し出す。
　日課なお肌チェック。
　無駄な脂肪の無いプロポーション、程よくついた筋肉、傷一つないすべすべの肌。
　チョーク受けた顔面も驚異のポジティブ回復力で、そのような跡は微塵もなし。
　日常言動からはトンと分かりにくいが、全ては毎日の涼太郎自身の努力の賜物なのである。

「うん、一日終えた僕も美しい！」

　指紋つかないように姿見のフチに手をかけ、未だまじまじと己の裸体を覗き込んで……、
　はっくしょん！
　自分に見惚れ過ぎて時間経過していたようである。
　陽射しの出ている間はすっかり暖かくなったとて、４月の夜はまだ涼しいのデス。お風邪を召さぬように。
　
「はっはっは、僕の美しさを妖精さんが噂してるのかな！
　なんたって、妖精さんがアートあふるる僕を食べに来たくらいだしね☆」（語弊）

　万が一お風邪召しても、ウイルスさんにすら美しさのあまり愛されるなんて！　と受け止めそうな勢いで、
　しかしてようやく浴室の扉を開ける涼太郎であった。

　いつも　しゃらんら☆　と取り出したる薔薇を、今日はお風呂に投げ入れ薔薇風呂に、
　なーんてことはせず、薔薇の香りの入浴剤でうっすら紅色な湯に浸かって、涼太郎はうっとりする。

「薔薇の花弁を浮かべたら家族に叱られたんだよね、はっはっは！」

　正確には、すでに実践済みであったようだ。
　そうだよねっ、花弁だってお湯に浮いているだけよりも僕の周囲を煌びやかに舞いたいものね！　という精神で、叱られた後は『はっはっは、反省反省ッ』と綺麗にお掃除していたとか。
　一旦温まった身体を湯からざばりと上げて、ふんふん鼻歌交じりに髪を、続けて柔らかな泡で芸術品たる素肌を包み込み洗い上げていく。
　そうしてまた湯船につかり、艶々な髪にはタオル巻き付け蒸せばトリートメントもしっかり浸透。
　やっぱりあるフェイス鏡に自分を映し、左目下の泣きほくろに雫が滴るのを見ては、これもまた素敵なビューティフルワンシーン！　と見惚れたり。
　たっぷり小一時間かけて、美の化身はバスタイムを高らかな笑いと共に満喫した。

　当然、お肌の磨き上げは湯上りにも残っている。
　ローズヒップの香り纏うボディローションで、すべすべお肌の保湿をしっかりと。
　そして高級そうな、ふっかふかなバスローブを天使の翼の如くファサァアッと羽織り。
　天使様専用ワイングラスにバラ色の赤ワインを、もとい、ぶどうジュースを注いで、決められた玉座たる窓際に腰かければようやく一息ついた。
　片手でグラスの中の蜜（適度なポリフェノール）を揺らしながら、心地よい風に前髪なびかせ夜景を眺める。
　２階ゆえ、町を見渡す程のものではなくせいぜいが近所の街灯や部屋灯りであるが、涼太郎の芸術フィルターたる瞳を通せば、全てが美しい景色に変わるのである。

「あぁ、今日も僕は美しかった……！　明日もキラッキラに輝くよ！　はーーっはっはっはっは！！」

　淡い光で癒してくれる月とお星さまに、
　明日には自分へスポットライトをあててくれる朝日に、
　乾杯☆
　『ネオ』スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャスな僕をお楽しみに♪（ウインク）