pain　夢の中で｜リアクション

pain　夢の中で

【夢をワタる】

　シーナ・キュクノスが静かに目を開けると、そこは厚い暗闇だった。
（あれ……？）
　さっきまで見ていた夢はどうしたのだろう。するとシーナの耳に小さな啜り泣きが聞こえてきた。
　シーナは周囲を見回す。と、闇の先にベルラ・ガーネブラッディが小さく蹲っている姿が目に飛び込んできた。
　驚いてシーナがそちらに踏み出そうとすると、足元でパキリと何か音がした。
（宝……石？）
　宝石の欠片が道に点々と散らばって、ベルラの元まで続いている。シーナは一瞬躊躇したが、パキパキとそれを踏みしめ歩き出した。

「師匠……どこか痛いんですか？」
　シーナはいつも見上げているベルラを戸惑いながら覗き込み、その瞳を見開いた。彼の体が……右半身から宝石になっていっていたのだ。驚きに声が出ないシーナに、ベルラは小さく言った。
「頼む見ないでくれ」
　ベルラは瞬きもせず闇を見据えていた。彼の右頬を音もなく涙が伝う。それはすぐ宝石になってカツンと地面に落ち、粉々に砕け散る。ベルラの口の端が引きつれた様に上がった。
「もう今の俺には……何も残ってない」

　シーナはぎゅっと胸を押さえた。ベルラの絶望が、闇を通してシーナの心の奥底まで伝わってくる。
　お日様のような貴方が光を失っている。耐えきれない重荷に潰されようとしている。
　闇がどんどん濃くなりすぐ傍にいるはずのベルラを取り込んでいく。シーナの瞳に強い光が浮かんだ。何も持たない僕だけど。きっと、これは夢。どうせ夢なら……展開を変えられる。
　シーナは静かに両腕を開く。そして闇を恐れずふわりとベルラを抱きしめた。

　貴方はたくさんのものを失ったかもしれない。けれども。
　貴方の優しさは違う形で残ってます。道は、続いている。これからも貴方はたくさんのものを救っていくでしょう。だから、哀しみに囚われないで。
　どうかベルラに伝わりますように。僕は貴方に助けられた。だから今度は僕が貴方を助けてあげる番。僕が、貴方のお日様になる番―――。

　シーナは跪き、大きなベルラを抱きしめる。ビクリとベルラは一瞬身を固くしたが、すぐにその力を抜くと、シーナにしがみつくようにその身を寄せた。
　シーナは穏やかに微笑みながら彼を包み込んだ。
　ゆっくり休んで、ベルラ。いつも貴方に守られてる僕だけど―――どうしてだろう、貴方を抱きしめる方が、よっぽどいいなって思うんだ。

　夢が溶け合い、周囲が明るくなっていく。
　小さな小屋のベッドで寄り添い幸せそうに眠るシーナとベルラの頬には、きらきらとした朝陽が降り注いでいた。