４月の☆ハッピーバースデー｜リアクション

４月の☆ハッピーバースデー

●４月某日　―寝子島住民たちのBirthday―

　白、黄、桃、灰白。
　恵御納夏朝の掌の中で、水晶を抱えた猫のキーホルダーがカチャカチャと音を立てた。
　４月に誕生日を迎えた友達や先生への、誕生日プレゼントである。

　目指す先は、職員室。
　元気に挨拶し、物理教師の四十九院鸞の名前を告げた。
「あらぁ、夏朝ちゃんじゃないのぉ」
　のっそりと椅子から立ち上がる鸞。今日はいささか眠たげの様子だ。
「先生。遅くなったけど、誕生日プレゼントです」
「私に？　ありがと、嬉しいわぁ」
　甘ったるい気だるげな声。
　長い黒髪をなびかせて歩く鸞の身のこなしは、どこか黒猫を思わせる。

「それと、これも。良かったら召し上がって下さい」
　夏朝は、カバンから小さなラッピング袋を取り出した。
　綺麗に包装された袋の中では、型取りした猫のクッキーが可愛らしく笑っている。
「美味しそうねぇ。ひょっとして手作り？」
「はい。僕が作りました」
「嬉しいわぁ。ありがと夏朝ちゃん♪」
　目を細めて笑う鸞。
　プレゼントに頬ずりするその姿は、本物の黒猫のようだった。

　夏朝は職員室を出ると、窓ごしに中庭を見渡した。
　探しているのは、テオドロス・バルツァと野々ののこだ。
　放課後の今頃なら、きっと学校のどこかにいるに違いない。
「僕のプレゼント、ふたりとも喜んでくれるかな……」

　学校の中を歩き回りながら、夏朝はふたりの顔を思い浮かべた。
　ののこへのプレゼントは、灰白色のキーホルダー。
　テオは黄色だ。こちらはスカーフに輪を通し、迷子札風に作ってある。

「ののこちゃん、テオ君！」
　中庭の花壇でふたりを見つけると、夏朝は手を振りながら駆け寄った。
「これ、僕の誕生日プレゼント。遅くなってごめん」
「あっ、夏朝ちゃん？　ありがとう！」
　顔を輝かせるののことは対照的に、テオはいつも通りの仏頂面で花壇の蝶にちょっかいを出していた。
「ほら、テオ！　プレゼントだって！」
　だがテオは、キーホルダーに見向きもしない。
　モノを持つのは面倒だ、スカーフなぞ動きづらくてかなわない……とでも言わんばかりだ。
「もう、テオったら……！」
「いいよいいよ。良かったら、気が向いた時にでも渡してあげて」
　夏朝はののこにテオのキーホルダーを渡すとバッグに手を入れた。
「ののこちゃん。このクッキー、よかったら食べて。テオ君はこっち」
　そう言って夏朝が取り出したのは、特製の猫おやつ。
　気怠そうに転がっていたテオは、それを見て一瞬で飛び起きた。
　そっちの方は貰ってやろう、と目を輝かせて駆け寄ってくる。
「嬉しいな。美味しい？」
　音を立ててクッキーを食べるテオを、夏朝は笑顔で見守っている。
「テオ、気に入ったみたいね」
「ふふっ、よかった。そういえば、ののこちゃんさ――」
　夏朝がののこと最近の事を話していると、新しい客が顔を見せた。
　茶色のツインテールを揺らしてやって来たのは、普通科２年の犬杜初だ。
「どうしたのテオ、ご飯？」
「あっ、初ちゃん」
　夏朝は初に駆け寄ると、桃色のキーホルダーを差し出した。
「はい、これ。ちょっと早いけど、誕生日プレゼント！」
「ういに？」
　初は意外そうな表情を一瞬見せて、すぐに笑顔を浮かべた。
「ありがと！　大事にするね」
「これからもよろしくね、初ちゃん」

　夏朝はひとつだけ、皆に黙っていたことがある。
　プレゼントに込めた願いのことだ。

　キーホルダーに付けた水晶には、魔除けの意味がある。
　プレゼントを手渡すときに、夏朝は小さな祈りを込めていた。

（どうか、皆が幸せに過ごせますように）

　大事な人々への、夏朝の純粋な願い。
　春の陽気を浴びた水晶が、キラリと光った。