４月の☆ハッピーバースデー｜リアクション

４月の☆ハッピーバースデー

●４月１９日　―源竜世のBirthday―

「やっほー！　誕生日だーっ！！」
　源竜世は目覚めと同時に、布団をガバッとめくり上げた。
　部屋の窓を開け放ち、差し込む朝日を一身に浴びる。
　元気いっぱいの声が、朝の町に響いた。

「母さん、オハヨー！」
「おはよう。誕生日おめでとう、竜世」
　居間に顔を出すと、朝食の支度が整っていた。
　飯櫃を運んできた母親に、竜世は目を輝かせて挨拶する。
　母も笑顔で、竜世の誕生日を祝ってくれた。

　竜世は近所の小学校５年３組に通う男子生徒だ。
　二人兄弟の母子家庭で、小料理屋を経営する母と一緒に暮らしている。
　裕福とは言えないけれども、満たされた日々を竜世は送っていた。

「今日はお店お休みだから、たっぷりお祝いしようね」
「やったー！　オレ、晩ご飯はエビフライとハンバーグが食べたい！」
　竜世は誕生日に、何でも好きなものを作ってもらえるというルールがある。
　夏休みと冬休みが一度に来た時のように、竜世は喜んだ。

　新学期早々にひとつ歳を重ねるのは、クラスの中でも年長になったようで、何となく気分がいい。
　大人の階段を上った喜びを、竜世は抑えきれそうになかった。
　きっと学校でも、テンション高いままだろうなーと浮かれた気分で思う。
　弾む足取りで通学路を駆けながら、竜世は朝に見た母親の笑顔を思い返していた。

　＊＊＊

　所持金１０７３円。
　それが竜世の全財産である。

　彼は今日のために、ずっと前から小遣いを貯めていた。
　マンガを我慢し、母の仕事を手伝い、必死に貯めた大事なお金。
　彼にとっては、ちょっとした大金だった。

　下校チャイムが鳴ると同時に、竜世は急ぎ足で校門を潜り抜けた。
　ランドセルに括り付けた小銭巾着が、ジャラジャラと重そうな音を立てる。
　旧市街の外れにある花屋で、綺麗な花束を買うのだ。
　生んでくれてありがとう、そんな母への贈り物だった。

「すみません！　花束ください！」
　旧市街の小さな花屋の店先で、竜世は大声で叫んだ。
　しばらくして、細身の若い女性店員がそっと顔を出す。
「いらっしゃいませ。お花ですか？」
「はい！　んと、大人の女の人がよろこびそうな花で！」
「まあ。それじゃあ、お花を見てみて」
　店員はくすりと笑うと、竜世を店に招き入れた。

「お花を贈る相手は誰かな？」
「母さん！　お礼の花をおくりたいんだ！」
　物珍しそうに店内を見回す竜世の目に、ふと赤い切り花がとまった。
　絵の具のような赤色だと竜世は思った。

「店員さん、あれがいい！」
「カーネーションね。何本ほしい？」
「これで買えるだけ！」
　竜世はジャラジャラと鳴る小銭を掌に広げて、店員に示してみせた。
「分かったわ。待ってて、今包んであげる」
　店員は、慣れた手つきで茎の切り口を切り直し、丁寧に花を包装していった。
「はい、１本おまけしてあげる。花瓶の水はこまめに取り換えてね」
「お姉さん、ありがとー！」
　こうして花を受け取ると、竜世は家へと走った。

「ただいまー！　これ、母さんにプレゼント！」
　プレゼントを渡され驚く母に、竜世は照れくさそうに笑った。
「へへっ。生んでくれてアリガトーのお礼！」
　母に花束を手渡すと、竜世は急いで靴を脱いだ。
　確か居間に、ちょうどいい花瓶があったはずだ。

　＊＊＊

「いただきます！　母さん、いつもアリガトー！」
　幸せな親子の夕餉。
　花瓶に生けたカーネーションが、団欒の一時を彩っている。