【身体測定】ドキドキ♂♀反転戦線、再び！｜リアクション

【身体測定】ドキドキ♂♀反転戦線、再び！

「す、すごい！　シャワールームでの絡み愛を摺りガラス越しに見ているかのよう！　チラリズム万歳！」
　タルトはニャニャ立ちのまま、自分の脳みそにその光景をスケッチする。
　ネネも鼻血が止まらず、ジュンに介抱されている。
　悠月とオルカのくぐもった歌声が響き渡る廊下は、彫刻の立ち並ぶ聖なる回廊のようだった。

　しかし、この状況は長くは続かなかった。
　物陰から一筋の軌跡を描いて猫シールが射出される。小さな三毛猫のシールが、ネネが手にしていたスケッチブックに張り付いた途端、異変が起きた。
「……きゃ。何？　急にスケッチブックが重く……！？」
　ネネのスケッチブックを持った手が、漬物石を抱えるかのように垂れ下がる。
　さらに複数の猫シールが飛んできて、倫理子や遠海、ニャニャ立ち勢の身体に次々と張り付く。それによって動けるようにはならなかったが、身体が軽くなるような感じはして、ポーズを取る苦痛が和らいだ。
　どこからか弾丸のように飛んでくる猫シールに、ジュンは警戒を強めた。
「ネネ。スケッチブックを捨てるんだ。敵がいる」
「でも」
「早く」
　ジュンはネネの手から、重くなったスケッチブックを払い落とす。スケッチブックはずんっと音を立てて床に落ちた。ジュンはそれを一瞥したが、拾おうとはせずに、ネネの手を取って駆け出した。

　ジュンネネと入れ替わりに現れたのは、白手袋を着用し猫シールを構える恵御納夏朝と、カッターナイフを手に警戒した表情のサキリ・デイジーカッターであった。
　夏朝とサキリは、手分けして倫理子、遠海、久雨、梢、瑠奈、タルト、オルカ、悠月の氷鬼状態を解除する。
　それから夏朝は、落ちているスケッチブックの前にしゃがみ込んだ。
「ひどい……希望も了承もしていないのに固まらされた上、無断スケッチなんて」
　先ほど飛ばして貼り付けた猫シールをはがし、ろっこん＜重く軽く＞を解除する。
　スケッチブックに記名はないが、ネネのものであることは明らかだ。
　パラパラとめくって夏朝は表情を険しくした。
「これは念入りに漂白した後、破棄させてもらうよ」
　タルトが「えー見たい！」といったが、夏朝は首を横に振って、スケッチブックを巾着袋にしまい込んだ。
　サキリはカッターナイフを胸ポケットにしまい、全員の無事を確認する。
「ネネとジュンの２人組はもれいびか。ネネがウインクで人を固めるろっこん。そしておそらくジュンのろっこんが播磨先輩を暴走させているのだろう」
　サキリはそう推理していた。さきほど、夏朝とサキリが物陰から猫シールによる攻撃を行ったのは、出会い頭に固められるのを警戒したためだ。

　助けられた梢は、こきこきと首を回す。
「まーったく、このままじゃ腹の虫が治まりませんよ」
　梢は物陰に隠れて＜胡蝶の詩＞で蝶になった。窓から出てジュンネネを探すつもりだ。

　久雨も痛む肩を揉み、言った。
「スケッチブックは夏朝が回収してくれたが、ジュン先輩とネネ先輩にこれ以上、身体測定を混乱させられるのは、保健委員として見過ごせないな」
　こうして、夏朝、サキリ、久雨の三人は、ジュンネネが逃げて行った方へと駆け出す。

　それ以外の生徒たちは、このまま教室に戻る、隠れている、もうサボる、とそれぞれに去って行ったが、そんな中、瑠奈はぽわんと考えていた。
（そういえば、愛李子先輩のろっこんって多重に効くのかしら？　ぶつかるごとに反転するのかなあ？）
　サキリがさっき言っていた。
　『ジュンのろっこんが播磨先輩を暴走させているのだろう』と。
（暴走しているなら、皆が困っているなら、あたしは暴走を止める側に回ろう）
　瑠奈はひとり、騒ぎ声のする方へ向かう。
　いつもより軽い体で。小走りに。