■君とつながる、魂のギア
　嵐が来ようとしている。
　暗雲が天を多い、遠くより雷鳴が来る。
　閃光に混じり、天空にて二機のカプセルギアが光の線を描いた。
　駆け抜ける鷹、絹織 真由良のアシュバード。
　星の輝き、八神 修の星弐號。
　脚部の爪をぐわりと開く。
　高熱のハンドをぐらりと開く。
　天空にて激突した二機は、衝撃の波で辺りの高層ビルを薙ぎ払っていく。

　風圧をお椀で防ぎながら、猫屋敷 姫のナデシコはビルの谷間に潜んでいた。
「戦術はかわらず。忍んで近づき、一撃必殺――おやっ？」
　ナデシコは急速に反転、袖の下に隠していたボウガンで無数の針を発射した。
　背後に迫っていた新田 亮のファイアロッキーが高速スウェーでそれを回避。
　ナデシコもまた大きく飛び退き距離を取った。
「気づかれたか。ま、不意打ちは性に合わないと思ってたところだ」
「レーダーにはかからない筈ですけど……よほど性能のいいレーダーなのですね」
　ピン、と針型の剣を抜くナデシコ。
　ファイアロッキーも、ファイティングポーズをとった。
「この距離にとらえたからには逃がさない。俺と打ち合って生き延びられるとも、思えないがな」
「さて、どうですかね！」
　見た目からは想像できない瞬発力で突きを放つナデシコ。
　ファイアロッキーはバックスウェーと上半身のひねりだけで突きを回避すると、アッパーカットを放った。
　身体をぐるりとスピンさせてギリギリのところを回避するナデシコ。
　すかさずフックを放つファイアロッキーに対し、ナデシコは至近距離から針ボウガンを乱射した。
　互いの攻撃がクリーンヒット。
　ナデシコはねじれるように吹き飛び、ビルの側面に激突。
　ファイアロッキーもボウガンの圧力におされて転倒、ビルに身体をめり込ませる。

　一方で、ネオ東京駅前にて二機のカプセルギアが対面していた。
　美しい駅舎の上に立ち、足を揃えて頭を下げる機体。城ヶ崎 梨々子のプリンセスダンサー。
　対して、空から鋭く見下ろす絹織 真由良のアシュバード。
「どんな弾幕でも避けてみせますわ」
「どんな機動でもとらえてやる」
「「さあ――！」」
　先制したのはアシュバード。ガトリング射撃が駅舎の大時計を破壊し、縦一直線に振り上げるかのごとく敵機を襲う。
　プリンセスダンサーは素早く跳躍。宙返りをかけてロータリーに着地すると、追撃のガトリングをジグザグにかわしながら距離を詰めていく。
　後退するアシュバードだがプリンセスダンサーの速度からは逃げ切れない。
　十字路をまがりビルの裏へと逃げ込んだ。
　プリンセスダンサーはスピンをかけ、ビルの側面を走る勢いでカーブ。
　それに対し、アシュバードはここぞとばかりにワイヤークローを発射した。
　プリンセスダンサーの腕を掴み爪が深く食い込む。
　しかしプリンセスダンサーも負けてはいない。リボンを発射してアシュバードのクローを根元から切断。
　バランスを崩したアシュバードだが慌てること無くライフルでの射撃で牽制した。
　プリンセスダンサーはリボンを持ったまま高速スピン。自らを中心に螺旋を描くリボンが弾幕を次々にはねのけていく。
　そのままぐいぐいと距離を詰め、身軽さを活かして飛びかかる。フリルに仕込まれた無数のナイフが相手を切り裂くのだ。
「終わりですわ！」
「そっちがな！」
　対するアシュバードはガトリングとシールドユニットをパージ。機体を急速に軽くすると、バトルライフルのブレードを叩き込んだ。

　極太ビームをバレルロールで回避する、仙藤 蒼のナイトヘッド・ブルース。
　その間も絶え間なく張られる弾幕を、ギリギリのラインで避けていく。
　しかし器用に張られた弾幕とトラップによって近づけない。
　白 真白のネージュリェーツは強固な弾幕による『歩く戦艦』なのだ。
「全く、相性がいいんだかわるいんだか……！」
　ジェット噴射で真横を抜けるナイトヘッド・ブルース。ネージュリェーツの弾幕が後を追う。
　と見せかけて、背中を見せた相手にネージュリェーツはブレストビームを発射した。
「うわっ、装填時間はやっ！」
　咄嗟のターンで回避を試みるが、ナイトヘッド・ブルースの尾翼に命中。バランスを崩して墜落した。
　そう、ネージュリェーツは頭部の長髪めいた冷却機構によってブレストビームを通常よりも早く再発射できるのだ。
「もらった……！」
　とはいえ即座に連射というわけにはいかない。ガトリング弾幕によってトドメを狙う。ビルが右から左に破砕され、大量のガラスとコンクリートが散っていく。
　煙があがり、がれきが崩れる音が響く。
　アニメやなにかであれば『やったか？』と尋ねるようなシーンに、真白は嫌な予感に包まれた。
「これは――来る！」
　直感オンリーで横に飛ぶ。
　煙の中から放たれたビームがネージュリェーツのガトリングガンを破壊した。
　吹き払われる煙。中から現われたのは、人型に変形したナイトヘッド・ブルースであった。
　高速飛行による一撃離脱。それが不可能になれば人型になって戦闘が可能な機体なのである。
「よく避けたね、けど二度目はないよ！」
　背部に移ったジェット噴射機で加速しつつ、手に持ち替えたビームライフルで射撃を開始。
「相手にとって、不足なし！」
　負けじとネージュリェーツもブレストビームを発射した。

　脚部ローラーで後退しながらグレネードを撒く、陸堂 源次のカオスダイバー。
　その弾幕を左手のエネルギーフィールドで防ぎながら、八神 修の星弐號はライフルを撃ち込んだ。
　飛来するライフル弾――を真っ向から切断する鈴島 クミのスクラップトレジャー九三式（ＳＴ９３）。
　そこへ椿 美咲紀の星壱號がビームハルバートを豪快に振り回しながら突撃していく。
　ＳＴ９３の剣とぶつかり、激しい火花が散った。
　チェインガン（機関銃）の射撃が大地を薙ぎ払うように放たれ、ＳＴ９３と星壱號は飛び退いた。
「結局協力してる」
「いいじゃん、ゲンジ。後で一騎打ち！　ね！」
「そう簡単にいける相手には見えないなあ」
　カオスダイバーはビルの谷間に逃げ込むと、星弐號の高威力ライフル弾をビルを利用して防いでいく。
　が、近接戦闘もいけるのが星弐號。回り込んで左手のエネルギーフィンガーを叩き込んできた。
　咄嗟に反撃に出るカオスダイバー。
　パイルバンカーとのぶつかり合い。
　互いの腕が崩壊し、吹き飛んで行く。高速道路にめり込み、おおきく傾かせた。
「やるね。けどこれならどうかな？」
　至近距離で突きつけられるライフル。
　が、横から飛び込んできたＳＴ９３の剣がライフルをまんなかの所で切断。
　爆発をおこしそうになったライフルを手放し、星弐號は上空へと逃げた。
「コンビネーションか。厄介だな」
「シューくん、ならこっちも――合体なのです！」
「「がったい？」」
　きょとんとするクミと源次を置き去りにし、星壱號と星弐號は手を取り合った。
　各パーツが一度バラバラに分解され、星弐號が腰や腕や足となり、星弐號が手足と胸、そしてスリムな頭となる。
　それすなわち。
「星が合わさり明星となる――明星皇！」
　カプセルギアの常識を超えた、リアルフォルムのギアである。
「そういうのアリなんだ、これ」
「言ってる場合じゃ無いよゲンジ！」
　大型になったハルバートを軽々と振り回し、胸からのビームを弾幕のように連射する。
　火器と操縦を分担したことによる隙の無い攻撃だ。
　ＳＴ９３とカオスダイバーはそれぞれビルの谷間に逃げ込むが、次々にビルが切り裂かれていく。
「ゲンジ！　なんかないの！？」
「なんかっていわれても……あ」
　はっと上を向くゲンジ。
「何か閃いた！？」
「閃いてない。これはだめなやつだ。機体が壊れる」
「だめなやつでもいいから！」
　がしりと肩を掴むＳＴ９３。
　振り返ったカオスダイバーに、目元をぎらりと光らせた。
「私と、ガラクタ君（ＳＴ９３）を信じて」
　かくして時は訪れる。
　ビルを切り裂き現われた合体カプセルギア明星皇。
　振り上げたハルバートが太陽を隠す、その瞬間。
「今だよ！」
「どうなっても知らないよ？」
　ローラーダッシュで勢いをつけたカオスダイバーが、あろうことかＳＴ９３をぶん投げたのだ。
「シュー君迎撃！」
「やってる！」
　胸からビームを放つが、ＳＴ９３はそれを剣で切り裂くように防御。
　そして、自らを弾頭として明星皇に突っ込んだのだ。