【星幽塔】そしてまた『日常』へ｜リアクション

【星幽塔】そしてまた『日常』へ

【第一階層(2)】平和を祈る歌(2)

　その少し前。
　アリス・シルヴィアは、やはり店の騒がしい雰囲気に引き寄せられるように、ＢＡＲアストラルを訪れていた。
（みなさん、とっても楽しそうですね）
　アリスは、ふわふわのウェーブがかかった髪から覗くウサギの耳をぴょこぴょこと動かしながら、楽しそうな人々の会話に耳を傾けていた。
　サジタリオの城下町は黒い竜の危機が去ってから、日に日に活気を増していっているが、影の脅威が完全に無くなってからというもの、その賑わいぶりは加速の一途を辿っている。
　そして、人が増えれば増えるほど、そこで語られる物語もまたその色彩を増していく。
（なんかここでいつまでも人々の話に耳を傾けていられそうだよ）
　そんなことを考えながらカップを傾けて、そこでようやくアリスはすでにカップが空になっていることに気づいた。
「すみません。もう一杯、ミルクを」
「はーい。ただいま～」
　アリスのオーダーに、ウエイトレス姿の恵御納理沙は、てきぱきと給仕をこなしながら、同時に的確に注文を通していく。
「ますたー、あっちのおにいさん達に生中、さんちょうなの！」
　ふと見れば、一見酒場で働くには似つかわしくないように見える幼い女の子も、客から注文を取っている。
「今度は本当に生中みたいねー。ステラちゃん、えらいわー」
「ステラ、やればできる子なの！」
　理沙に頭をナデナデされてご満悦なステラを見ていると、なんだか二人が親子のようにも思えて、穏やかな気分になってくる。
（これも、影の脅威が去った後ならではの光景ですよね。きっと）
　アリスはそう思い、平和な日常の素晴らしさを噛みしめる。
（せっかくだから、影から塔を救った冒険者の英雄譚でも聞きたいですね）
　そう思った時、アリスの視界にふと大きな緑の帽子が飛びこんできた。
「むにゅむにゅ。もう食べられないよー……」
　あまりにもテンプレートな寝言を呟く、メイディ・パッセのお気に入りの帽子がそれだった。
（……もう随分と長く眠っておられるようですけど、大丈夫でしょうか？）
　気になったアリスが近づいてみると、そのときパチリとメイディが目を開けた。
「……ふわぁ。おはよーございまーす……」
「お、おはようございま、す？」
　メイディに挨拶をされ、律儀に返すアリス。今はもう夜なので、返した言葉は微妙に疑問形だったのだが。
「……あれぇ？　ここはどこかな？　メイディ、城下町をお散歩していたはずなんだけどー……」
「あの、さっきからずっとそこで寝てましたけど……」
「な、なんだってぇー！？」
　アリスの言葉に、メイディはそれはそれはオーバーなリアクションで驚いたものだった。

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