【星幽塔】そしてまた『日常』へ｜リアクション

【星幽塔】そしてまた『日常』へ

【第一階層(3)】平和を祈る歌(3)

　メイディ・パッセは、平和になったサジタリオの城下町でお昼寝場所を探しがてらお散歩をしていた。
　平和でなくても、お散歩もお昼寝もよくしていたが、平和が戻った『塔』でのお散歩やお昼寝はまた格別に違いないと思ったからだった。
　ところが、気がつけばメイディは何故か酒場でお昼寝をしていて、しかも気がつけば夜になっているらしかった。
「な、なんだってー！？」
　と、メイディが驚いたのも無理からぬことである。たぶん。
「……あの、ごめんなさい。起こせばよかったですか？」
　と、そこでメイディを起こしてくれたウサギの耳を生やした少女が申し訳なさそうにそんなことを言ってくる。
「ううん。あなたが謝ることなんて何もないよ～。メイディね、どこでも寝られるのが自慢の一つなんだ～」
　そう言ってメイディが笑うと、ウサギの耳の少女――アリス・シルヴィアも少しはにかんだように微笑んでくれた。
　それから、二人は自己紹介をし、互いの名前を確認しあう。
「そっか。メイディさんは最終決戦に参加してたんだ。凄い。よかったら、お話聞かせて？　私は、今回の影のことではあまり動けてなかったから」
「んー、メイディもそんなにたくさん動いてたわけじゃないんだけどねー。そーだねー、第十三階層はー星が綺麗、だった？」
　と、メイディは首を傾げながら言った。
「……なんで疑問形なの？」
　と、アリスが問えば、
「うーん。おっきな竜に大型弩砲でどっかんどっかんした後、眠くなっちゃってあんまりおぼえてないんだよねー」
　と、メイディも照れたように笑う。
　眠ければ眠るのはメイディにとっては当たり前だったが、アリスにはそれが面白かったようで、赤い目を見開いたかと思えば、息を吹き出してクスクス笑い始める。
「メイディさんって、面白いです。綺麗な星かぁ、私も見てみたかったな」
「あ、じゃあさ、今度、メイディと一緒に十三階層の星を見に行こうよー」
「いいですね。是非、行きたいです」
　アリスがそう言ったとき、ウエイトレスの恵御納理沙がカップに並々と注がれたミルクを持ってくる。
「お待たせしてごめんなさ～い。あ、帽子のお嬢さんは、何をご注文かしら？」
「え？　メイディ？　あ、えーと、じゃあ、メイディもたまにはお酒飲んでみようかなー。甘い感じのカクテルとかありますー？」
「かしこまりましたー。それじゃあすぐにお持ちするわねー」
　理沙はそう言って、本当にすぐに持ってきてくれた。
「はーい。リーシャオリジナルカクテルよー」
「ありがとー。ん、おいしー」
　メイディは、ひとくち飲んだだけで、口の中に広がる甘みとアルコールの独特の感触にまたトロンと眠くなってきた。
「ところで、あなた達のどちらか、楽器は弾けないかしら？」
「え？」
　出し抜けの理沙の質問に、メイディが目を見開けば、
「私、ハープなら弾けますけど。でも、どうして？」
　と、アリスがウサギの耳ごと頭を傾げる。
「じつはあの女の子が一曲歌ってくれるって言うんだけど、せっかくだから誰か一緒にやってくれる人がいればなぁと思って」
「わかりました。私、弾きます」
　と、アリスは立ち上がって、酒場の即席ステージに立つ刹那の歌姫――夢宮瑠奈と対面した。
「頑張ってねー」
　と、メイディは手を振るけれど、すでに二人の音楽家は真剣に即興の歌の内容を話し合っている。
「だから、私は冒険者達の英雄譚を称える歌を歌おうと思うの」
「いいですね。伴奏は任せて。瑠奈さんは思いきり歌って」
「うん。ありがとう、アリスちゃん！」
　かくして、瑠奈の歌声が酒場に響き、そこに優しいアリスのハープの音色が重ねられる。
（わあー。素敵だなぁ……）
　そんな二人の奏でる音楽にうっとりと耳を傾けながら――
「ぐぅ……」
　気がつけば、メイディは再び気持ち良く眠ってしまっていた。

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