チューリップに想いを込めて｜リアクション

チューリップに想いを込めて

岡瀬結華はたまたま見かけた花屋に足を踏み入れると、カラフルな花々の競演に瞳を輝かせた。
（チューリップフェアかぁ。綺麗なお花）
花々に見惚れるも、その表情は笑みのない真剣な表情に見える。
店員が「あの子なんで花を睨んでいるんだろう？」と不思議に思っていることなど、結華は知る由もない。
（特別な日じゃなくても、パパやママに日ごろの感謝を伝えてもいいよね）
こうして結華はチューリップフェアへの参加を決めた。
（どの色にしよう？）
チューリップを吟味していた結華は、視界に飛び込んできた黒いチューリップに衝撃を受けた。
（う～ん、珍しくて面白いけれど……）
スマホで花言葉を検索してみると、「私をわすれてください」と出てきた。
（パパとママに贈るには違うかな）
私を忘れてください、なんてパパとママには口が裂けても言えない。
（悲しすぎるもん……）
考えるだけで涙が零れてきそうになる。
気を取り直して他のチューリップに視線を向ける結華。
（ママはやっぱり、ピンクかな。パパは紫が良さそう）
「あの、チューリップ、二本いただきたいのですが……一本ずつパパとママ……あ、えと、両親に渡したいんです」
店員は一瞬きょとんとして、すぐににこりと笑った。
（パパママ呼びしてしまった……）
一人恥ずかしがっていると、突然声をかけられた。
「恥ずかしがることないんじゃないかな」
「え？」
振り返ると、そこにいたのは大学生と思しき青年の姿があった。
「あ、いきなりごめんね。俺は木天蓼大学二年の嶺新太」
「……岡瀬、結華です」
結華は不審に思いつつ、「ちょっとカッコイイかも……」と少し見惚れてしまった。
「俺、いま幼馴染にあげるチューリップを選んでるんだけど。こういうのよくわかんなくてさ……ははは」
なるほど、とようやく合点がいった結華はふと新太の表情を見て察するところがあった。
「その方のこと、好きなんですか？」
「え！？」
途端にぎくりとする新太。結華はしまった、と思った。
「ご、ごめんなさい。見ず知らずの人にこんな……」
「いや、俺も突然知らない女の子に声をかけてしまって……申し訳ない」
ふたりでペコペコ頭を下げまくっていると、店員が何事かと走り寄ってくる。
「すみません、チューリップを包んで持って来たんですが……何かありましたか」
「いや、なんでもないです」
新太が言うと、店員は不審そうに新太を見つめていたが、結華が「知り合いです」と言うと、ようやく安心してくれたようだった。
「ごめんね、嘘つかせちゃって」
苦笑する新太に結華は首を横に振った。
「いいえ、お気になさらないでください」
「……ご両親のこと、大切にね」
その言葉で先程のパパママ呼びを思い出し、結華は
「あの、さっきのこと秘密にしてください」
と顔を朱に染めた。新太は一瞬目を丸くしたが、
「わかった。でも家族を大切にするのは良いことだと思うよ」
と微笑む。新太の言葉に結華は「はい」と恥ずかしそうに答えたのだった。

結華は今度は猫の便箋を選ぶのに迷っていた。猫の種類って色々あるんだな、と妙に感心する。
（ママは……白猫で、パパはキジトラかな）
なんとなくのイメージで選んでみる。
「あの、今すぐここでメッセージを書くことってできますか？」
結華が尋ねると、店員は快く頷いてすぐにペンを持ってきてくれた。
猫の便箋にかわいらしい文字が躍る。

「ママへ
いつもお家のことをたくさんありがとう
もっとお家のお手伝い頑張るね
　　　　　　　　　　　　　　　結華」

「パパへ
いつもお仕事お疲れ様
肩もみとか、いつでもするからね
　　　　　　　　　　　　　　　結華」

書き終わると、結華はよし、と満足そうに笑みを刻んだ。
（パパ、ママ、喜んでくれるといいな）
ウキウキしながら帰路につく。その足取りは軽い。
満面の笑みで、結華は玄関に足を踏み入れた。
「ただいま！」

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あとがき

担当マスター：禰琉
ファンレターはマスターページから！

こんにちは、禰琉です。
今回もお花をテーマにしたお話でした。書いていて気づいたのですが、チューリップの見頃、すでに過ぎていたんですね……ネットに「四月」と書いてあったんです(言い訳)
とはいえ、皆さんのアクションが面白くて思った以上に執筆がはかどりました。
ありがとうございます。
私は春生まれなので、季節のなかでは春が一番好きです。皆さんの好きな季節はなんですか？

ご縁がありましたら次回作でまたお会いしましょう。
今回のご参加、まことにありがとうございました。

禰琉

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