ナゾコイ・シンドローム｜リアクション

ナゾコイ・シンドローム

　恋は唐突。
　一目交わしたその瞬間から恋に落ちることもある。
　さて、本日の恋はといいますと、
　木天蓼大学のとある研究室にいる久田嵐(くだらん)博士が作った惚れ薬の失敗に端を発し、
　神魂のせいで広まった謎ウイルスが原因。
　しかも同性限定とくれば……混乱は必至というもので。
　恋は盲目。
　本日の病は、ナゾコイシンドローム。
　そんなナゾコイの数々を見てゆくことにしよう。

　Ｃａｓｅ１．新田亮の場合

　春の寝子電がカタコトと海沿いを走っている。
　旧市街の漁港付近にある自宅に帰るため、木天蓼大学寝子島キャンパスに最寄りのシーサイドタウン駅から、鎌倉方面へ向かう上り電車に乗り込んだ新田亮は、突然、鼻がむずむずし、
「ハーーーーックション！」
　と盛大にくしゃみをした。
　あまりに大きなくしゃみだったせいだろうか。近くにいたサラリーマンや学生やおじさんたちが（どういうわけか周りは男性ばかりだった）、一斉に視線を向けてきて、亮は思わずうつむく。
（思いっきりに人目を引いてしまった……恥ずかしい）
　すると、目の前の大学生らしい男性がティッシュを何枚か差し出してくれた。
（やべ、ちょっと鼻でたか）
　鼻と口元を抑えつつティッシュを受け取り、ちん、と噛む。
「ありがとうございます」
　どういたしまして、と男性は微笑む。
　全く見覚えはないが、何やら親密さを感じさせる笑みだ。
（親切な人だな）
　その直後のことだ。背後にいたスーツの男性が、
「ゴミが付いていますよ」
　と言いながら亮の尻をぺろりと撫でた。
「おわっ！」
　この時点ではまだ、お尻にゴミがついていたのだろう、くらいに思っていた。ただ急に尻を撫でられたことにびっくりして、亮の体は前方につんのめり、ティッシュをくれた男性の胸にぶつかる。
「あ、すみませ……」
　詫びる声が尻すぼみになる。
　ティッシュの男性が、亮の体に腕を回してきたからだ。
　その手つきは、よろめいた体を支えようという親切とは違い、愛撫にも似た生々しさを伴うものだった。
「え？」
　妙な気配を感じ、顔をあげる。
　男性の突き出された唇が、眼前に迫っている！
「Ｎｏｏｏｏ！！」
　亮はティッシュの男性を突き飛ばすと、尻を撫でたスーツの男も押しのけて、電車の中を走り出した。ティッシュの男性も尻を撫でたスーツの男も、その向こうにいたおじさんたちも、亮を捕らえようと手を伸ばしてくる。
「どうなってんだこれ！？　いや、考えてる場合じゃない。今は逃げないと！」
　親切なティッシュの男性やおじさんたちのために弁護しよう。
　この寝子電には、ナゾコイシンドロームのウイルスが蔓延していたのである！
　あちらこちらではじまる男性同士のまぐわい。
　それらひとつひとつをじっくり観察している余裕は亮にはない。
「寝子島駅まであと３分！　頑張れ俺の貞操……！！」
　たかが３分。されど３分。
　前へ前へと車両を移動する亮は、一番前の車両に入った途端、どんっと筋肉質な胸板にぶつかった。
　胸板の持ち主は、金髪でケツアゴで青髭で真っ赤な口紅を付けており、突然、亮のほっぺたに濃厚なぶっちゅーをかましてきた。たまたま電車に乗り合わせていた、ゲイバー『ジオフロント』のママ、ミッシェル・ナイスゲイである！
「いや～んｖ」
　ミッシェルは謎ウイルスに感染しているわけではなかったが、ミッシェルのまわりのイケメンサラリーマン集団が感染してしまったらしく、先頭車両はミッシェルwithイケメンパラダイスになっていた。
　イケメンにアタック（性的な意味で）され、受け入れ体制万全であったミッシェルは、その気満々でやばそうな歌を歌いながら亮の股間をすりすりする。
「キューキュータ～マ♪ 　タマタマキューキュー♪」
「ぎょえええええええ！！！！」
　おぞましさに震え上がる亮。
「うほっ！　神速脱衣っｖ」
　それ違う人の技ですからっ！　とかいう間もなく一瞬で服を脱ぎ、亮に飛びかからんとするミッシェル。
「やーーーめーーーろおおおおおおーーー！！！」
　亮の右ストレートが炸裂するが、周りのイケメンサラリーマン集団のせいでミッシェルに届かない。
　が、イケメン集団は脱いだミッシェルを取り囲んで、彼の手が亮に届くのを防いでくれてもいる。
「ああんっ！　あんなことやこんなことをされるのは大歓ゲイよぉん！」
　ミッシェルの姿がスーツの中に埋もれて見えなくなっていく。
　亮はがくがく震えながら神に祈った。
「早く早く！　駅についてくれええええーーー！！」
　頑張れ！　寝子島駅のホームはもうすぐ！　ドアが空くまであと１分！

このページにイラストを設定する

ナゾコイ・シンドローム

シナリオ

シナリオデータ

シナリオスケジュール

参加キャラクター一覧