久保田先生の女子力アップ大作戦！　着物編！｜リアクション

久保田先生の女子力アップ大作戦！　着物編！

　一方、男性陣は文也の指導のもと、女性陣より早く長襦袢の着付けまで終わってしまった。
「着物を着るまでの準備はこんなものかな。次に進む前に質問がある人はいる？」
　文也が尋ねると正座をした尊が指をそろえて挙手をする。
「質問、よろしいでしょうか」
「どうぞ。そんなに畏まらなくてもいいよ」
「私は教えていただく立場なので……。
　伺いたいのは着物の色と素材についてです。情けなくも、私はそのあたりの機微に疎いもので季節感というものを教えていただけないでしょうか」
　尊は和装を好むため基本的な着付けは問題なく行える。着物を着た際、意識が引き締まるのが好ましかった。つまり、機能性を気に入っていたのである。しゃれっ気は二の次になりがちだ。
「季節感か。俺も伺いたいです」
　修が尊に同意する。修は家の行事で着物を着る機会があるため着付けや着物に関しての知識は一通りあるものの、普段は洋服で過ごしている。
「私も興味があります、ふふ……！　素材は実際に触れないとわからない部分が多いですからね」
　タッマーキも背景にバラが溢れそうな笑顔で応えた。
　ご要望が多いなら、と、文也が少し考えて口を開く。
「日常的に着るなら洗濯しやすい紬やポリエステルでいいと思うけどね。季節感を出したいなら帯にこだわればいいんじゃないかな」
「帯……？」
「そう。ちょっと待ってね」
　修の不思議そうな声を背中に受けながら、文也が男物の帯が入った風呂敷を解く。これがいいかな、といくつかの帯を修たちに手渡す。タッマーキの瞳に好奇心があふれる。
「この帯、隙間が多い素材でできていますね。私の指が透けて見えます……！」
「そそ。当たり前だけど夏って暑いじゃない。そういうときは蒸れにくいのがいいよね。この、『羅』っていうざっくりした織り方のやつは見た目も涼しげでおすすめできるよ」
　矢羽や蔦などデザイン性に富む帯が並べられる。
「某が答えられるのはここまでかな。
　塩田さーん。手、空いてます？　こちらのお兄さんたちに帯を見立ててやってよ」
「あー、ええよ。男前になるよう、いいの選んであげようね」
　普段は糸目の塩田さんの両目がカッと見開かれる。
　センスに定評のある塩田さんがするどい眼力に修、尊がごくりと生唾を飲み込む。タッマーキの心臓はトゥンクと高鳴った。
「塩田さん……！　この明智、デザイン性に加えて締め心地の良さに関心があります……！」
「あい、わかったよ。
　まず目が隠れているお兄さんはこれ。雰囲気がハイカラだからね。はっきりした柄がいいんじゃないかい」
「幸福の極み……！」
　塩田さんが黒地に薄い格子模様の着物を選んだタッマーキに、濃淡の付いた縞模様の灰色の帯を渡す。
「茶髪のお兄さんにはこれ。顔が上品だから王道なほうがいいだろう」
「恐れ入ります」
　かすれ縞の入った生成りの着物を選んだ修には、矢羽のラインが入った紫の帯が渡される。
「いい体のお兄さんにはこれ。あんた、どっかに明るい色を入れると似合うね」
「いい体……」
　体格を褒められ戸惑いながらも尊が帯を受け取る。涼しげな紺地の着物に粋な黄色の帯が添えられた。
「やっぱり見立ては塩田さんだね。
　じゃー、着てみようか。女の子たちも支度が終わったみたいだしね」
　座って様子を見ていた文也は狐のような笑顔で塩田さんに礼を言い、男子の着付けをする前に伸びをした。