久保田先生の女子力アップ大作戦！　着物編！｜リアクション

久保田先生の女子力アップ大作戦！　着物編！

　仙藤紫は佐藤さんに指導してもらいながら着付けを済ませ、姿見で後姿を確認していた。鏡越しに久保田先生が向かっているのが見えたので振り向いて視線を合わせる。
「紫ちゃん、選んでもらったやつ着てみたよっ。どうかな」
　久保田先生が袖を軽くつまみながらポーズをとる。時間ギリギリまでお喋りをしていた久保田先生は何を組み合わせればいいか考え終わらなかったため、近くにいた紫に選んでもらったのだった。
　久保田先生は新緑を連想させるような爽やかな若草色の着物を着ている。白抜きで青海波が描かれており、くすんだ桜色の帯を合わせている。
「この帯、後ろが可愛いの。鳥が大きく描かれているの、見える？」
「ええ、よく見えます。先生の背中で仲良さそうにしています」
　帯の上では親子らしき大小の小鳥が羽ばたいていた。
　紫は浴衣以外では正月に晴れ着を着る程度のため組み合わせを考えてほしいと言われたときは戸惑ったが、久保田先生の仕上がりは上々である。顔には出ないが満足していた。
「ありがとう。ふふ、着物って楽しいね。
　紫ちゃんの着物姿もとっても綺麗。いつも大人っぽいけど、今は色っぽいかも！　かんざしがよく似合っているよ～」
　紫はハナミズキが描かれた淡い水色の着物に先生と色違いの薄い金色の帯である。初めはいつものように落ち着いた色を選んでいたが、久保田先生の着物を選んでいるうちに華やかな装いも悪くないと考えた。
（先生より大人っぽくならないようにした、とは言わないでおきましょう）
　紫がわずかにほほ笑むと、かんざしの澄んだ湖の色をしたガラス細工が光を弾いた。
「かんざしは塩田さんに貸していただいたんですよ。この髪はあちらの明智さんに結っていただきました」
「髪形も着物に合ったもののほうがいいかな？　私もかんざし貸してもらおう」
　久保田先生は紫と共に塩田さんの元に向かい、かんざしを貸してもらうことにした。帯の色の揃えて薄桃色の牡丹のかんざしを選ぶ。
「先生、かんざしと揃えて帯留めも合わせませんか」
　帯留めとは帯の上、中央にぐるりと回る飾り紐のことだ。和装のアクセサリーである。季節感の演出や差し色として使われることが多い。
「帯留めかー。こう見えて国語の先生だから、季節感のあるモチーフならわかるよ！　俳句と似たような感じで考えればいいんだよね」
「そうですね。季語になるようなものなら間違いないかと思います」
「和服は少し先の季節を取り入れるのがいいのよね。初夏の季語なら牡丹かなぁ。蕪村や漢詩でおなじみの花の王様だもの」
　七宝焼きの牡丹の帯留を手に取り鏡で合わせてみる。確かに国語の先生ではあるのだが紫は少し感心した。
「先生に女子力の高さを感じました」
「えっ。嘘っ！？　どの辺に！？」
「普通の人は牡丹が初夏の季語だとは分からないですよ。先生にとっては当たり前のことかもしれませんが。和の文化は先生と相性がいいのかもしれませんね」
「そ、そうかなぁ。和服といえば樋口先生じゃない。そんな風に考えたことなかったよー」
　謙遜しつつも嬉しいようで久保田先生はもじもじと体をくねらせた。