さくら、ふたたび｜リアクション

さくら、ふたたび

「良い勝負だったけど……そろそろタイムオーバーで引き分けかな？　またいつか勝負の相手をしてくれたら嬉しいな」
　気がつくと、周囲からはさくらねこ星人の姿も人の姿もなくなっていた。佐藤英二の目に映る範囲に限ればさくら色と緑色の割合は互角であり、英二とさくらねこ星人に付いている絵の具の量も同じくらいだった。
　自分たち以外が発する声と音が聞こえなくなったもの寂しい空間で、英二はさくらねこ星人に勝負の終わりを告げた。傘を閉じ、銃を下ろした怪人は、周囲をきょろきょろして自身を見下ろした。
「……引き分けにしてやるに゛ゃ゛。に゛ゃ゛あ゛は、邪魔してくる相手と戦うだけに゛ゃ゛」
　全身から何かカッコいいオーラが出ている気がする。実際、カッコいい。
「うん、その時を楽しみにしているよ」
　キリッとした表情のさくらねこ星人に別れを告げ、英二は歩き出した。

「…゛…゛…゛…゛」
　背中が見えなくなるまで英二を見送ると、さくらねこ星人は気合を入れなおした。
「よし、に゛ゃ゛！」
　再び銃を撃ち始める。英二の塗った緑色の部分をさくら色に塗り直していく。さくらねこ星人の目的は、あくまで街をさくら色に変えることだ。
「に゛ゃ゛！！」
　彼が叫ぶと、まだ地球に残っていたさくらねこ星人たちが方々からやってきた。
「に゛ゃ゛！」
「に゛ゃ゛！」
「に゛ゃ゛！」
「に゛ゃ゛！」
「どうしたの？　こっちで塗り合いをしたいのかなぁ？」
　曖浜瑠樹もついてくる。コロコロローラーを押してきて、さくら色を緑色にしていく。
（まだいたに゛ゃ゛！？）
　仲間を呼んださくらねこ星人は驚いた。
　集団になり、皆で絵の具を塗っていく。
「に゛ゃ゛……？」
　先ほどまで英二と撃ち合いをしていたさくらねこ星人は、思ったよりもやる気が出ないことに気がついた。街にはまだ緑色の部分がたくさんあるのに、心が充足感に満たされている。
「うに゛ゃ゛……？」
　立ち止まって心臓のある場所に手を当てる。どうして街をさくら色一色にしようと拘っていたのかわからない。情熱が消えてしまっている。
「……す、すみません……桜色の世界が欲しいのなら……お譲りしたいものが、あるんですが……」
　そのさくらねこ星人に、浅葱あやめが声をかけてきた。振り返ると、彼はピンク色のサングラスをいくつも持っていた。
「これをくれるに゛ゃ゛？」
　他のさくらねこ星人も何だ何だという感じで集まってくる。
「……はい……か、かけてみて、いただけませんか……」
　あやめがおずおずとサングラスを差し出す。さくらねこ星人たちは彼の両手に乗っているそれを順番に取り、かけていく。
「に゛ゃ゛っ゛！？」
「に゛ゃ゛！」
「に゛ゃ゛う゛！」
「み゛ゃ゛っ゛！！」
「に゛ゃ゛」
　さくらねこ星人たちの視界全てがさくら色に染まった。

（……やっぱりこんな子供だまし、通用しないだろうか）
　どきどきしながらあやめが様子を見ていると、きょろきょろしていたさくらねこ星人たちは満足そうに「「「「「に゛ゃ゛っ゛！！」」」」」と一斉に叫んだ。そうして、あやめと瑠樹の方を見る。
「に゛ゃ゛あ゛たちは帰るに゛ゃ゛」
「……い、いいんですか？」
「もう、満足したに゛ゃ゛。今日は楽しかったに゛ゃ゛」
「地球人のこと、に゛ゃ゛あ゛たちは誤解してたに゛ゃ゛」
　それはイコール、創造主である地球人が地球人をわかっていないことになるのだが、そう言うのは無粋だろう。
　さくらねこ星人たちは少しずつ消えていく。その彼らに、瑠樹は笑顔で手を振った。
「さくらねこ星でも、元気でなぁー！」
「「「「「に゛ゃ゛っ゛！！」」」」」

　さくらねこ星人は全員、地球から消えていった。

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