こねこのふしぎなひみつきち～愛と葛藤の脱出劇～｜リアクション

こねこのふしぎなひみつきち～愛と葛藤の脱出劇～

【拉致監禁の始まり】

「……まずは子猫さん達とお話をしてみようかな」

　子猫の秘密基地に閉じ込められてしまった恵御納夏朝は、ひとまず悩むのを止めた。
　20畳ほどもある広い畳敷きの和室のなか、30匹は下らない子猫が思い思いに過ごしている。

　捕らえられたままでは秘密で飼っている猫に夕ご飯をあげられないことが気になったが、秘密基地にいる子猫たちがどうしても気になった。
　基地を守るために帰せないと子猫は言ったけれど、なぜそこまで厳重に秘密にしなくてはいけないのか。
　すぐ側で遊ぶ茶トラの子を優しくなでながら、恵御納はこの子猫たちのことを知りたいと考えていた。

　にわかに辺りが騒がしくなる。
　恵御納と同じように捕まって意識を失っていた人達が、次々に目を覚し始めたようだ。

「……にゃんこがいっぱいです！」
「何だよここは！　パラダイスじゃねぇか！」

　一斉に歓声を上げたのは、綾辻綾花と鈴木弥次郎だった。
　立場や状況よりもまずは子猫が最優先だったようで、さっそく近くの猫を可愛がり始める。

「なにがどうなってるのか分かんないけれど、可愛いは正義よね」

　今いるメンバーのなかでは一番年長である真境名アリサもまた、とりあえず子猫を愛でることを選択した1人だ。
　その隣りにいる谷咲桃笑は、白い子猫のお腹をくすぐりながら周りを見渡して首をひねった。

「子猫かわいい！　……けど、ここっていったいどこ？」

　当然の疑問を含んだ言葉に同意したのは、最年少だろう新田樹だった。
　幼い外見に似合わぬ物静かな声で答える。

「私、ここに連れてこられた記憶が無いんですけど……これって誘拐ってことでしょうか」

　その現実的な一言に、幻想的な返事が返ってきた。

「ゆうかいとは失礼にゃ！　ひみつきちを守るために、必要なぎせいなのにゃ！」
「え？」
「ね、ねねね、ねこがしゃべったー!?」

　あやしていた白い子猫が急に人語をしゃべったことに驚いた八十八旗信彦は、思わず落しそうになり慌てて抱き直した。

「あぶなかったー」
「このくらいの高さなら平気にゃ。でも、ありがとにゃ」

　白い子猫は八十八旗の手を舐めてお礼を言うと、その場にいる人皆に話しかけた。

「ここはあたしたちのひみつきちにゃ。ひみつきちはひみつだからひみつきちなのにゃ。だから知ってしまった人を帰すわけにはいかないのにゃ」
「え？　俺たち帰れないってこと？」
「そうにゃ。月に虹がかかるまでは、ここにいてもらうにゃ」
「月に虹……？」
「シュー君。どういうことでしょう？」

　不思議なキーワードを聞いて少し考え込む八神修に、友人である椿美咲紀が問いかける。
　しかし、流石に現時点では情報が少なすぎて、八神はひとまず首を振って答えた。

「まだなんとも言えないな。それはそれとして、テオテオを見なかったか？」
「いいえ、見てませんけど」

　八神は椿の返事に眉をひそめた。一緒に散歩していたはずの飼い猫テオテオは、この秘密基地にはいないらしい。
　心配そうにまわりを見渡す八神に、白い子猫が告げた。

「心配いらないにゃ。ネコはひみつきちを知ってもかまわないにゃ。あなたの家族はかんり人のクロ様にお願いしてお家に送りとどけたにゃ」
「そうだったのか。ありがとう。クロ様、でいいのかな？」

　白子猫が示す先には大きな黒猫が床の間に鎮座している。
　どうやら普通の猫ではないらしく、長い2本の尻尾をゆらゆらと振って八神の礼に応じた。
　テオテオの無事が確認できてホッとした八神だったが、問題自体は解決していない。疑問は増すばかりだ。

　そんな中、部屋の片隅でどこかのんびりとした嘆きが上がった。
　スマートフォンを手に、収まりの悪い髪をかきながらぼやいたのは水守流だ。

「おいおい。ネットは見られるのに書き込みもメールもできないって、どうなってんだぁ？」

　水守の言葉に、慌てて数名が手持ちのスマートフォンで確認する。
　確かにインターネットは繋がるが発信はできないし、電話もつながらない。

「う、嘘でしょう？」
「今日は彼女とディナーの約束があるんだ。連絡も取れないなんて、ヤバイって」

　谷咲と八十八旗は和室を飛び出して玄関と裏口を見に行くが、予想通り扉は1ミリたりとも動かない。
　新田がさりげなく和室の障子をひくと庭が一望できた。しかし縁側から先は厚いガラス戸で仕切られていて、外に出られそうもない。

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