それは偶然の出来事だった。
恵御納 夏朝がのんびりと旧市街を散歩していると、真っ白い子猫がトテトテと歩いているのを見かけた。
まだ親離れしていないような幼さなのに、辺りには親猫や兄弟猫は見当たらない。
「……こねこさん、大丈夫かな?」
恵御納はこっそり後をつけてみることにした。
白い子猫は頼りない足取りで、路地裏に入っていく。
まるで有名な童話のウサギを追いかけていく少女になった気分でついていくと、いつの間にか見慣れぬ風景になっていった。
「……あれ? 確か路地裏を歩いていたはずなのに」
すでに家屋は見当たらず、九夜山に入ってしまったような気がする。
でも歩いた時間からすれば麓にすら着いていないはずだし、そもそも風景の違いに気がつかない訳がない。
子猫は迷いなく歩み続けている。
引き返すわけにもいかず、そのままついていくと、森の中に小さな屋敷が見えてきた。
こじんまりはしているけれど、十分立派な平屋造だ。
九夜山にこんな家屋があるなんて、今まで見たことも聞いたこともない。
「にゃにゃにゃ! いつのまについてきたのかにゃ?」
突然の問いかけに驚いて足元を見ると、追跡対象の白い子猫が恵御納を見上げていた。
「……こねこさん、喋れるの?」
「困ったにゃ。ひみつきちがばれてしまったにゃ」
「……秘密基地?」
「ひみつきちはひみつだからひみつきちなのにゃ。『ひみつ』を守るためにはこうするしかないにゃー!」
子猫はたどたどしい仕草で恵御納に飛びつき、その足首に噛み付いた。
子猫なだけに大したスピードでもなかったが、恵御納的にはその様子があまりにも可愛くて、かわすことなど考えなかった。
甘噛みだったので痛くない。しかし、別の効果が表れる。
恵御納は急激に眠くなり、その場に倒れ伏した。
* * * * *
騒がしさに目を覚ますと、そこは広い畳敷きの部屋の中だった。
体を起こし周りを見渡した恵御納は、思わず心が震えるのを自覚する。
子猫。
子猫の群れだ。
部屋中に子猫がいて、思い思いに過ごしている。
寝ている子もいれば、何匹かでじゃれ合っている子もいる。大あくびでうつらうつら船を漕いでる子もいた。
なんて子猫パラダイス!
恵御納が内心歓喜の海で溺れかけていると、側にいた白い子猫がまたもやしゃべりかけてきた。
「ここはあたしたちのひみつきちのなかにゃ。あなたたちはもう帰さないにゃ。『ひみつ』を守るためにゃ」
「……え、帰れないの?」
「そうにゃ。『ひみつ』を守るためにゃ。かんり人がゆるさないにゃ」
子猫の視線を追うと、部屋の床の間に大きな黒猫が一匹寝そべっている。
時折、揺れ動く尻尾は二股に見えた。猫又や化け猫の類だろうか。
子猫の「あなたたち」という言葉に戸惑って見渡すと、他にも何人か横になっている人が見える。
どうやらこの秘密基地を見つけてしまった人は恵御納だけではないようだ。
「今日は困った日にゃ。こんなにたくさんの人にばれたのは初めてにゃ」
白い子猫は小さく鳴き声を上げると、恵御納に告げた。
「きちの中は自由に使ってもいいにゃ。食べ物も水もあるにゃ。でも外には出れないにゃ。あなたはずっとひみつきちの中にいるのにゃ」
……えっと、それって子猫の秘密基地の囚われ人ってこと?
どうしよう。ずっと居てもいいような気もしなくもないような……。
恵御納が真剣に悩み始める側で、白い子猫は横になり大あくびをして呟いた。
「……ひみつきちは月に虹がかかるまで、ぜったい『ひみつ』なのにゃ」
はじめまして。またはお世話になっております。
今回のシナリオを担当する阿都と申します。
どうぞよろしくお願い申し上げます。
今回のシナリオガイドは【寝子ミー】寝子島セカンドマップ提案所のアイデアが元になっています。
シナリオガイドにご登場いただきました恵御納 夏朝様、ありがとうございました。
もしシナリオガイドへのご参加くださいましたら、自由にアクションをいただければと思います。
子猫の秘密基地でのんびり過ごしてください。
【状況】
あなたは偶然、子猫の秘密基地を目撃してしまいました。
そして、理不尽にもさらわれてしまいます。
目が覚めたら、そこは子猫の秘密基地の中。
子猫たちは「秘密を守るためにも帰すことはできない」といいます。
今回の目的は「子猫の秘密基地からの脱出」です!
……と言いつつ、のんびりまったり子猫とたわむれても全然OK!
子猫の秘密基地を堪能してください。
以下、PL情報です。
(1)子猫の秘密基地を脱出するためのヒント
・子猫たちと遊ぼう!
子猫たちが求めているのは『秘密の厳守』です。
仲良くなって信頼を勝ち得れば脱出できるかもしれません。
・子猫たちと会話をしよう!
秘密基地内と周辺では、なぜか子猫たちと会話ができます。
交渉してうまく説得できれば、家に帰してくれるかもしれません。
・管理人の猫又を攻略しよう!
この秘密基地を管理運営しているのは、猫又の黒猫です。
猫又を説得したり、退散させたりすれば、秘密基地自体が消えて脱出できます。
・のんびり過ごそう!
この秘密基地は神魂の影響でできたものですので、日付が変わる頃には消滅します。
ただし真夜中に九夜山の奥で解放されますので、その日は満足に眠れないでしょう。
次の日は体調を崩してしまいそうです。
(2)スタートは参加者全員、畳敷きの広い居間から始まります。
・居間の他にはキッチン、ダイニングルーム、和室が2部屋、お風呂、トイレなどがあり、一通りの設備と家具、日用品、雑貨がそろっています。
・居間は障子を開けると広縁があり、ガラス戸に遮られていますが庭が一望できます。子猫たちは猫用の出入り口から庭と行き来ができるようです。
・電気、ガス、水道はなぜか完備されていて、冷蔵庫には一般的な食材もそろっており、料理もできます。
・テレビを見たり、インターネットを見ることはできますが、外に向けて情報発信はできません。
・その他、一般的な日常生活はほぼ不自由なく送れます。
(3)子猫に攻撃はできません。
秘密基地は子猫を守るためにあるので、中で子猫に攻撃はできません。
もし子猫に危害を加えると、強制的に押し入れに閉じ込められ真夜中まで身動きできなくなります。
ただし管理人の猫又とはバトル可能です。
・攻撃を加えると素早く移動しながら、牙と爪で反撃してきます。
・キャラクターの苦手な物に変身したり幻惑したりします。
・子猫を守ることを最優先に行動します。
・戦闘の規模によっては戦うキャラとともに庭に移動します。ただし庭は結界に包まれていて、猫又を倒さない限り庭から外には出られません。
・猫又に負けると押し入れに閉じ込められ、真夜中まで行動不可能になります。
(4)アクションには以下の点をお書き下さい。
◎秘密基地でどのように過ごしますか?
◎積極的に脱出しますか?
◎他のキャラクターとどのように関わりますか?
・GA
・同じような行動をとる人とは積極的に交流する。
・基本的に単独行動をとる。
・他のキャラが脱出するのを邪魔する。など
以上です。
あなたのキャラクターは無事、子猫の秘密基地から脱出できるでしょうか!?
(のんびり子猫とたわむれても問題ありません)
ご参加、お待ちしております。
それでは、どうぞよろしくお願い申し上げます。