壁画通りを作ろう｜リアクション

壁画通りを作ろう

●アーティスト達の競演

　三宅葉月は落書きが描かれた壁の下見をしてきたので、綺麗になった部分にどんなモチーフの絵を描くか。
　それに必要な色の数や光の加減による発色の違い、使用する塗料の性質などを考慮して、色の濃淡を頭の中で考えて決めていく。
　具体的なイメージが決まったので、さっそく作業に。
「……これでいくわ」
　まずはゴム塗料を使い、下地となる色を壁一面に塗り付ける。仕上がりが遅くなるが、塗料の定着や発色、風雨への耐久性に優れている。
　以前、別の場所に描いた壁画は物語性のある絵だったので、今回はそれとは別に視覚的な美しさや楽しさを主眼に置いた絵に。
「いろいろな画材があるから、違った雰囲気の絵が描けるわ」
　落ち着いている表情をしているが、心の中では、すごく楽しんでいるようだった。
　全体的に淡い色彩を用いて、色鉛筆で描いたようなタッチでまとめたモチーフは花などの植物や猫。
　それに、少しレトロな印象の小物。
　描かれる場所や壁面の面積、それに光の加減などを考慮し、構図をまとめて配置したり画材を使い分けて着色していく。
「……どの季節に見ても違和感のない絵って、難しいわね」
　時折手を止め、これでいいのかしら？　と考え込んだり、こうしたほうがいいかしら、と思ったり。
　苦心しながらも仕上がりはどれも淡く幻想的で、どの季節に見ても違和感の内容に。
「……良い出来。仕上げといきましょう」
　そして最後に、絵の端にその絵を描く少女の等身大の絵を描けば完成。
『きれい。えほんみたい』
　小山内海は、感心して葉月の絵をじっくりと見る。特に感心したのは、色の濃淡の使い分けだった。
「……ありがとう。あなたの絵も、絵本の１ページを見ているようで素敵よ」
『ありがとう』
　絵筆を魔法の杖のように操り、壁にファンタジーな世界を作り出した絵の妖精。
　幻想的イメージな寝子島の絵を壁画に描いた絵という魔法を紡ぐ静謐な精霊。
　ふたりは、互いに落書きだらけの壁に各々の素敵な空間を生み出した。

　絵を描く道具を手にした桜月は、ノートを見ながら壁に絵を描いている。
　可愛い服、格好いい服、明るい服、ちょっと暗めの落ち着いた服。
　それぞれに似合う服を着て友達と、恋人と、家族と一緒に歩いている様子を描く。
「家族と一緒に、か」
　少しだけ、幼少期の苦い体験を思い出た。それを飲み込んで、忘れようと絵を描く事に集中。
　友達と一緒にいるところは、気兼ねなく話せる大切な友人である旅鴉月詠と遊んでいる場面。
　恋人と一緒にいるところは、いつも傍にいてほしい大切な恋人と一緒に過ごしている場面をイメージ。
（一緒に壁画を作りたかったな……）
　大切な人は、今、何をしているのだろうかとふと思った。
　ひとりで仕上げるのは寂しいが、恋人にも見てほしい。その思いが、月を奮い立たせた。
「うん、楽しい……」
　色々と考えながら大きなキャンパスに何かを描くというのは、独特の楽しさがあるのかもしれない。
　そして、この絵を色々な人や恋人、友人が見るのかと思うとワクワクしてきた。
「できた……」
　こんなものかな？　と、月は絵を完成させた。
「楽しそうな絵じゃないか。私も描いてくれたんだね」
　完成した月の絵を見て、月詠は「いい絵だ」と褒めてくれた。
「ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいよ。早く彼女に、この絵を見せたいよ」

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