壁画通りを作ろう｜リアクション

壁画通りを作ろう

●壁いっぱいに描こう

　小山内海は、スケッチブックに描いたラフスケッチを基に、スプレーペンキでファンタジー世界を描く。
　二つの月と満天の星空を反射する鏡面湖は青いスプレーで。その上からペンキをつけた絵筆で月と星空を。
　輝く水晶が立ち並ぶ平原は背景が鮮やかな緑で、水晶は白や銀色、紫といった色で宝石感が出るように塗る。
　森の中に隠れた鮮やかな花園は、平原の背景に春に咲くさまざまな種類の花を。
　波濤が陽光を受けて煌く大海は、海の色がコバルトブルーになるよう調整し、太陽の光がキラキラ反射するように絵筆で細部を描き加え。
　マグマが噴き出し溶岩が流れ出す火山は、赤と白、黒をところどころにつかいわけて噴火しているように。
（イメージが湧き出る限り、私が思うファンタジー世界の風景を描いていこう。思う限りに絵を描いていくのって楽しい）
　どの背景も、見た人にイメージが伝わるように丁寧に、真剣に仕上がっている。

　芸術家気質の旅鴉月詠は、クロッキーを開いて壁に描く絵の構図を思案中。
「うーん、ただ上手な絵を描いてもいいけれど、驚きがほしいな」
　意外性がある壁画を描きたいと思うが、どのようなものにしようか悩んでしまう。
　落書き消しを一所懸命していた皆のことを思うと、なるべく１発で終わらせたい。
　失敗しては二度手間になってしまうし、消してくれた人達に申し訳ない。
「こんなのにすれば、皆、驚くんじゃないかな」
　あれこれ考えた末、クロッキー数枚に鉛筆で素早く描いた落書きを消している仲間の構図を基に描くことに。
　月詠が描き始めたのは、額の汗を拭いながら壁を掃除したり、壁に絵を描いている人物の絵。
　落書きを必死で消す仲間、今、壁画制作にとりかかっている仲間の様子を、ありのままに描いている。
「な、何かすごい……飛び出したり、別の何かに見える感じがする」
　一休み、と他の人の絵を見ていた響タルトは、リアルな描写に驚いた。
「ぱっと見、ぎょっとするだろう？　トロンプルイユ（だまし絵）さ」
　トンネルとかも描いてみたいが、ぶつかる人がいるかもしれないのでさすがに……とやめた。
「仕方ない、猫と戯れる人物の絵を描くとしよう。あとは、有名だがこのような絵も描こう」
　そう言うと、魔術をするかの如くサラサラと描き出す。
「……この絵、すごく綺麗」
　三宅葉月が見惚れたのは、４枚羽で大きく、白の線画の蝶の羽。
　中心に立てば、まるで羽が生えたように見える。目の錯覚を利用したトリックアートだ。
「天使の羽は世界的に見かけるものだけど、これは思わず撮りたくなるだろう？」
「……そうね」

　私も描きましょう、と葉月も作成に取り掛かる。
「服……汚れても大丈夫……？」
　黒のゴシック衣装を身に纏っているので、汚れていいのかどうか夏朝は気にしている。
「汚れることを気にしていては、良い絵は描けないわ」
　衣装は他にもあるから大丈夫、心配無用と葉月は答えた。

「遅くなってごめん」
　日焼けしないように日傘をさした桜月が遅れてやって来た。
　絵描きのような帽子を被り、ブラウス、ショートパンツをサスペンダーを吊った衣装の上に白衣を着ている。
「大丈夫だよ、まだ完成していない。早く描かないと暗くなるよ」
　画材はそこ、と道具一式が置いてある箇所を指さして言う月詠の言うとおりだ。
「遅くなった分は実力で取り戻す。さあ、仕上げといこう」
　月は昼間、自室でノートに描いておいたイメージを想像し、どのように描こうか構図を考え始めた。