【新入生歓迎会】ピュアも猛者もまとめてエンジョイ新歓祭！｜リアクション

【新入生歓迎会】ピュアも猛者もまとめてエンジョイ新歓祭！

「結城先輩、お疲れ様でした。演奏、心に響いてとても楽しく癒されました」
「わっ、ありがとう！　新田君のも楽しみに見させてもらうね」

　捌けてきた日和とバトンタッチの会話を交わして、新田亮は『さて行くか……』と戦へ出陣の如くキリッと表情引き締め、舞台へと歩み出す。
　照明の眩しさに目を細めれば、パフォーマンスをすると決めてからの今日までの日々が、ふと走馬灯のように脳裏を駆け抜けた。

　小学生時代、小柄で体力も人並み以下だった亮は鍛える為に格闘技を習い始める。
　その中でボクシングを教えてくれた師匠は、ボクシングだけでなく人生観や日々を乗り切る技術など様々な事も語ってくれた。
　『女を落とす為には芸も一つは身に付けろ！』
　ボクサーとしての彼は一流であったが、如何せん人間性には大いに問題があり、幼かった亮も次第にそれが分かって来れば、酒や女遊びする師匠を見かける度に溜息をつくようになっており。
　しかして根が真面目な自分は、半強制だったとはいえ言われた事を渋々でもこなさずにはいられず。
　おかげで器用さがどんどん養われていったわけだが。

　――　……当時は馬鹿馬鹿しいと思っていたが、まさか活かされる日が来るとは。
　数年間のブランクを取り戻す為に練習する日々は、中々に感慨深いものだった気がする。
　駆け抜ける思い出を胸にしまい直せば、一礼した後亮はボールを二つ取り出した。
　ジャグリングである。
　最初は片手で二つのボールを、常に均等の高さで投げ続け。
　一見見ている側からは簡単そうに見えるが、このボール２つの基本の力加減が上手くいっていないと、どんなにボール３つで練習を始めても長くは続かない。
　『ボール１つ２つを侮るなかれ』
　本当に、教えている時は的確なのだから……なんて、師匠の言葉を思い出しそっと苦笑いを漏らす。
　最後は爛れた生活習慣で病気となり故人となった師匠だが、いつだって思い出す時は後悔しないよう生きているその顔と背中。
　まぁ、私生活も真っ当が一番だがと脳裏の故人へと笑いかけながら。
　亮はボールを３つに増やし、両手で交互に投げ合い始めた。
　カスケード、と呼ばれる基本のボール投げ。３つになっても変わらぬボール捌きに、その難しさが分かる者からは『わー！』と楽しそうな声も上がる。
　手のひらが温まれば、亮は次々と技へと移行した。
　カスケード中に時折膝を上げれば、球を持った手をその下へと潜らせてから放るアンダーザレッグ。
　１つの球を高く頭上に投げ、その隙に体を一回転させてから落ちて来た球をキャッチしそのままカスケードに戻る、ピルエット。
　プロの大道芸人のようなパフォーマンスに、亮がボールを放ったり回転したりする度観客席から拍手が沸いた。

「おー！　ヒーローくん、器用だねー！」

　ってかここまでですでに皆すごいんだけどッ。
　生徒会長席で真面目に舞台を見つめる志波武道も、すっかり普通にパフォーマンスを楽しんで皆と一緒に拍手していたり。
　最後に、大きく一回転を決め両手を広げお客にアピールする亮、……の脳天に、投げた球がスコンスコーンッと見事にヒット。
　うおおおおおっっ？　と痛がり撃沈した瞬間、綺麗に緞帳が閉められた。
　『あはははは！』『どんまーい！』なんて労いの拍手が大きく繰り出される。
　――　……ふぅ。良かった、ウケたみたいだ。
　最後の失敗はわざと。緞帳のタイミングも事前に打ち合わせ済みだったり。
　『最後にはオチをつけるべし』
　師匠の言葉通りか。肩から力を抜き一安心する亮であった。