【新入生歓迎会】ピュアも猛者もまとめてエンジョイ新歓祭！｜リアクション

【新入生歓迎会】ピュアも猛者もまとめてエンジョイ新歓祭！

■成長へのソロ舞台

　――　わぁ……いつ聴いてもステキ。新入生も、度胸あるなぁ……。
　次のパフォーマーとして待機している結城日和は、軽音部の演奏をずっと見つめながら何度目かの深呼吸をした。
　とうとう３年生。
　去年までの自分なら、今年中に自分の音楽で何らかの結果を出さなければと焦っていたかもしれない。
　そんな自分を変えてくれたのは、やはり音楽とそこに関わる人たちだった。
　色々な舞台に挑戦した。その経験は確実に自分の中にある。
　そう思えたからこそ、今回思い切ってソロ演奏として舞台に立つことを決めた。
　大丈夫、大丈夫、大丈夫………。
　少しでも自身にハッパをかけるように、制服では無くこれから弾く曲をイメージした、白とピンクを基調にした華やかな衣装に身を包んでいるものの。
　無意識に両手を胸にあて、何かを振り払うように何度も呟く。

「緊張でもしてんのか」
「えっ！？」

　突然聞き覚えのある、心のどこかで待っていた声色が響いてくれば、日和はばっと顔を上げ背後を見る。
　舞台袖に入る入口を背もたれにして、神嶋征一郎がそこに立っていた。

「ど、どうしたの神嶋君っ」
「別に。自分らの楽器や道具に、漏れが無いが確認に来ただけだ」

　事実であった。楽器が置いてある壁際と日和が立っていたカーテン部分は、楽器たちの方から覗き込まないと日和の存在に気付かなかったのだとしても。
　直感からか、無意識に日和は微笑んでいた。

「………なんだ」
「ううん！　何でもないよ。……私ね、技術としては拙いかもしれない。
　けど今ここでする演奏に妥協は無いつもり」
「そうか」
「パフォーマンスとしてのヴァイオリン、そういうのを目指すつもりだよ」
「……自分は戻る」

　日和の表情を見つめた後、それ以上返答することなく踵を返す征一郎の背中から日和は何かを受け取った気がした。
　ありがとう……。そう心の内で呟いた日和には、もう強張った空気は一切纏わりついていなかった。

「続いては、３年生からも激励のパフォーマンスよー！
　結城日和さんより、曲はモーツァルトの『ハフナーセレナード』♪」

　舞台中央までしゃんと背筋伸ばして歩いてくれば、正面へお辞儀。
　日和はスッとヴァイオリンを構えると、躊躇うことなく歌うように弾き始めた。
　モーツァルトの管弦楽曲の中で、もっとも華やかで明るい曲と評されることもあるこの曲を、新入生たちに、聴いてくれる全ての人に贈る弦を奏でる。
　楽しませるための演奏……ああ、やっぱり私は音楽が好き……。
　日和の演奏が講堂内に満ちていく。
　輝く太陽のように快活な、妖精の戯れのように典雅な。
　パフォーマンス用に短く編曲したそれを、日和は始終微笑んだまま引き終えた。
　沈黙とは違う、穏やかな静寂を保っていた観客席からその瞬間一気に歓声が起こり、気付けばほとんどの生徒がスタンディングオベーションしているのだった。