【新入生歓迎会】ピュアも猛者もまとめてエンジョイ新歓祭！｜リアクション

【新入生歓迎会】ピュアも猛者もまとめてエンジョイ新歓祭！

■思愁

　颯爽と歩くたびサンキャッチャーのようにキラキラ艶々と光を映す黒髪が、スポットという新たな光を受ける出番を今か今かと待って揺れる。
　雨寺凛は袖から舞台を見つめ、ちょっと早く待機し過ぎたかな？　なんて隣りにいる黒依アリーセへ
ちろりと舌を覗かせた。
　彼女のいつも通りの愛嬌溢れる表情にアリーセはニコリと返せば、その脳裏に蘇るは一年前のこと。

「去年の事、思い出すわね」
「そうだね。あれがきっかけでアリーセちゃんと仲良くなれたんだよねぇ」

　呟かれた言葉に、凛からもしみじみとした声色が続く。その胸元にはギターと翼のペンダントが、凛の嬉しそうな音色に連動したように小さく震えたように見えた。
　それを視界に捉えればどこか恥ずかしそうに、それでも幸せそうな色を頬に浮かべてアリーセは思う。
　――　去年凛さんに貰った羽根を、今年は私が皆に……。
　最初は、突然出番と言われ挙句即興で詩を作ったりとどうしようかと思った舞台だったけれど。
　あの歓声とそれに出会わせてくれた凛の存在があったから、今、自由に歌声舞わせる翼がある。それを休める居場所も。
　新入生のコたちにも何かを得るきっかけになればいい、そんな決意はアリーセだけでなく凛も同じで。

「今年も盛り上げていきたいね！　これで絆が深まるといいな！」

　自然と笑顔を向け合った２人のそばへ、パタパタと控えめな足音が聞こえて来た。
　今回新入生として、また軽音部新入部員として、一緒にライブをする３人が同時に先輩２人の姿を見つければいそいそと寄ってくる。

「……ついにこの日が来たっ！」
「僕がボーカルも担当するなんて……正直下手どころのクオリティではないような気がするのですが」
「落ち着いて、白咲さん。大丈夫。あれだけ一生懸命練習してたのだもの」

　早くもテンション上がって叫びそうになっている水川音葉へ、まだ抑えてと人差し指を口元へあてて示す凛とアリーセだが、早くも役割分担が出来ていそうな３人の会話を聞けば微笑ましそうに見守った。

「いきなりの大舞台だけど……最高に楽しみっ！　
　２曲目の方のボーカルは菖蒲ちゃんと遠海ちゃんと私の３人だから、調子合わせなきゃね」
「うん、頑張ります。舞台に立って人に見られることには慣れてる、はずなんですが……
　ジャンルが違うとやっぱり緊張するものですね。ってあれ？　楡宮さんは……」

　明るくエネルギッシュな音葉との会話に元気づけられながら、あれさっき落ち着かせてくれた楡宮遠海さんの姿が隣りに無い？　と気付けば、白咲菖蒲はきょろりと周囲を見渡す。
　舞台袖のカーテンや衝立が重なる一画、自身のキーボードの最終調整を行っている遠海の姿を見つけて菖蒲は感心の吐息をついた。
　遠海にとって、これは寝子高校での初ライブではあるが彼女の人生の中ではもはや何度目とは数え切れないライブになる。
　遠海の母はインディーズバンドのキーボーディストであった。故に幼い頃から鍵盤に触れ、自我が出てくる頃には演奏技術や初見初奏までを叩きこまれる生活を送っていた。
　初めてのステージは小学５年生。中学に上がった頃には当然の流れでバンドを組んで、機会を掴んではライブを行っていたのだ。
　遠海にとってはつまり、進学をきっかけにバンドを移籍したような感覚に留まったわけだが、遠海自身入部してからまだ一週間経つか経たないかであることに変わりなく。
　メンバーが変われば無論、演奏における調和は一から練習が必要となる。
　――　早速大舞台を踏めるのは良い経験ね。
　短期間の練習でも、先輩や同級生が良い人たちなのはハッキリと分かった。
　あとはこの大舞台でまた垣間見える各々の顔があるだろう。
　閉じた瞼の裏で、担当メロディ箇所の楽譜を追い深呼吸をしたところで、休憩時間終了のアナウンスが流れた。
　