せんせいといっしょ：川添先生編｜リアクション

せんせいといっしょ：川添先生編

　海岸まで押してきていた折り畳みのリネンカート。その中に入った何枚かのごみ袋を手にごみを拾って回っているのは、八神修だった。

「ふー、結構集まるもんだな」
「シュー君、ほんとにゴミ拾いしてたんだ？」
　後木達に加わって、川添先生をあれこれと質問攻めにしていた美咲紀が、笑いながら声をかけてくる。

「うん、これが俺のモチーフだから。美しい島とまではいかなくても周り位はねってことで」
　軽く肩をすくめて笑みを浮かべる八神に、美咲紀が「それは反則だよー」と笑いながらツッコミを入れ。
「冗談。このゴミから何か作れないかやってみようと思ってさ」
　きっと、そういう課題なんだろうって思ったし。

　材料は自分で決めて探す。
　工作手段も自由。
　テーマは抽象的――これは、自分に向き合う必要がある課題だ。
　ならば、作品にはより強く自分が現われる。
　つまり、これを通して生徒のことが知りたい。そういう狙いもあると考えたんだ。
　だから、俺も俺を表現しようとね。

　そう想いを込めて視線を投げかけてみたものの、当の教師はといえば、「お腹へったねぇ」と益体もないことを美咲紀に語りかけている。
「あ、いいのありますよ。センセはお菓子とか好きですか？スイーツ。シュー君の用意してくれるスイーツは美味しいのですよ」
「へぇ、スイーツ！　いいねぇ」

　ニコニコ笑いながら、現金にこっちを見てくる川添先生に、八神は苦笑を浮かべながら、別途装着していたバッグから、袋を取り出すと、代表して美咲紀にそれを手渡した。
「ベーグルです。みんなでどうぞ――あぁ、あとお茶があります、お茶。こんなこともあろうかと作って持ってきてたんです」
「修ちゃんは何でかほんとに準備がいいのだ」
「ふむ、では僕もいただこうかね。八神、当然僕の分もあるんだよね？」
「もちろんだよ、旅鴉」
　そうして八神は全員にお茶を紙コップにいれていきわたらせると、自身もまたすぐ近くに腰を下ろして一服し始めた。

　女性陣はとみると、川添先生の作品モチーフで何が多いか、という話で盛り上がっているところだった。
「私は生物が好きなのです。動物でも植物でも。センセはどんな作品が多いですか？」
　そう問いかける美咲紀に、「静物のほうがおおいかなぁ」と言う川添先生。
「動物だと動いちゃうのがこう、よくってねぇ、モチーフにするというよりも、むしろこう、愛でたく思ってしまうんだよねぇ」
　相変わらずがおーのあごをちょいちょい撫でながら言う川添先生。

「うーん、確かに。はじめての彫刻、何が良いでしょうかねえ」
「ふっふっふ、真央ちゃんは実は決めてるのだ！　でもさっきからがおーが気持ちよさそうなので飛び出す機会を若干見失い気味なのだ！」
　そうなの？　じゃあやめとくよ？　と言ってひょいと腕を引いた川添先生。
　不満げにごろごろと喉を鳴らすがおーを腕に抱きかかえ、「よっし、じゃあごめんなさいなのだ、真央ちゃんは先に帰るのだ！　何故ならスコップがいるのだ！　アデューなのだっ」と叫んで走り去っていく真央。

　そんな真央の後ろ姿に手をふりながら、「真央ちゃんは行っちゃったけど――月詠ちゃんは、願いをテーマに、どんなものを作るんだい？」と問いかける。そろそろ時間がなくなるよー。そんな声に、旅鴉は「うーん」と空を仰いだ。
「願いですかー。私は作品作りながらのーんびり暮らせればそれでいいと思うんですよねー。平穏一番。祭りは二番。明日ハレの日ケの昨日、って感じですね」
　まったく答えになっていない答えだったが、「うんうん、そういうのいいよねぇ。アトリエで寝て起きてだらけてたまに粘土こねてしたいよね」と同意している。

「いやいや、それ概ねニートですよねー」
「まぁでも、幸せなのは、そうかも……」
　美咲紀と八神のツッコミも、「至上……！」と握手を交わす二人の耳には届いていないらしかった。

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