おいしい休日♪｜リアクション

おいしい休日♪

「寝子島美味しいものフェスタと聞いてやってきましたわ！」
　白いロングウェーブの髪の上下左右がそう言うと、
「わ、すごい屋台の数！　わくわくする……！　一緒に楽しみましょう、上下さんっ」
　茶色いロングヘアの千堂結が答えました。
　芸術科と普通科、寮と一人暮らし、学年以外は接点がないように見えるけれど、二人は食べ歩きの情熱で結ばれた仲間なのです。
「は～、どれも美味しそうだなー……」
　結が目移りしているうちに、上下はすでに試食に手を出しています。
「迷っているのは時間の無駄と知りましたわ。お先に失礼、モグモグ……これもこれもとっても美味しいですわ～。千堂先輩もどうぞ」
　お嬢様育ちなのに庶民的。モグモグとおいしいものを頬張る左右です。
　次は何を食べましょう……と視線を上げた時、見覚えのある少年を見つけました。
「ん？　結先輩結先輩！　あそこに折出君がいますわ！」
「ん？　そうですね、確かに折出君です」
　結もほぼ同時に、知り合いの中学生、折出司の姿を捕らえていました。

（待ちに待った美味しいものフェスタ……へへっどれから周ってやろっかなー）
　黒髪ショートのサッカー少年司は、マップを手に混み具合を判断し、コースを考えているところでした。
（一応出店する甘い物系の店にはもうチェックも入れたし……後は順に制覇していくだけだ！　あぁ素晴らしき美味しい物フェスタ！）
　甘いもの好きを普段隠している司ですが、甘いものを目の前にした時の顔の輝きようといったら、全然隠せていないのでした。
　しかし。
（……ハッ　背後によからぬ気配が！）
　様子を伺っていた結が、
「こんにちは、折出君。一人で来たの？」
　と笑顔で声をかけ、
「お～りい～でく～ん何してますの？」
　（＾ワ＾）の顔文字のようにニコニコと左右が近寄ります。
「っ！？　結先輩に……オバサンまで！！　何してんだよこんなとこで！」
「さては甘いものを調べ……」　
「べ、別になんだっていいだろ……じゃ、俺用事あるから！！」
「あっ逃げましたわ」
　司の甘いもの好きも、実は女の子が苦手なことも、左右はお見通しです。
　サッカー少年である司はフットワークには自信があるのですが。
「ちょっと失礼～」
　ろっこん『Close to you』で机と椅子を動かしてしまいます。
（ま、まわりこまれた……！？？！？）
「どいてよオバサン達！」　
「ふふ。良かったら、３人で一緒に回らない？」
　結が優しく誘います。
「え？　一緒に？　いや俺は一人で行くから！　引っ張るなよ！　おい！」
「捕獲完了ですわ！」　
「あ、嫌だったら嫌って言ってね！」
　結はにっこりと言いますが、さすがにはっきり嫌とは言えない司です。
「さ、一緒に行きますわよ～」
　そうこうしているうちに連行されてしまいました。

（はー……何で女の人に連れまわされてんだろ……）
　ため息をついた司ですが。
（まぁ甘い物系のお店行くのには助かるけどさ）
　そんな気持ちもあります。
「ん～どのお店の食べ物もとても美味しいですわね」
　試食しながら、美味しいものを買い込んでいく左右。
「お二人は好きなものありますか？」
　左右の問いに、結は悩みます。
「は～、美味しいものはみんな好きだから……本当に迷っちゃう……こうなったら、全制覇目指してみたい気持ちもある……！」
　食べられるだけ食べたいな、と思う結です。
「私は甘いものは大好きですわ。お昼と一緒に、甘いものでも食べましょうか！」
　左右の言葉に、司は無言で頷きました。　

　店員さんの声につられて、そちらを見ると。
「あら、恵御納先輩」
「あっ、上下さん」　
　夏朝が露店で呼び込みをしていました。
「バイトですか？　可愛いお菓子ですわね～」
　左右も夏朝も猫好き仲間です。
「うん、『いもこねころころ』って言うんだ。芋饅頭版こねころころだよ。これは背中に『じゃ』って書いてあるからじゃがいもあん」
「かわいい！　これください」
　結も思わず買ってしまいました。

「あ、さっきのお店、俺食べたい……何だよニヤニヤすんな！」
　お姉さん二人の表情に、つい怒ってしまう司です。
　でも人目を気にして甘いものを諦めるなんて、できない相談でした。

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