春野菜収穫！｜リアクション

春野菜収穫！

「できた」
　スケッチブックを手に、月詠は立ち上がりました。
　描かれているのは、麦藁帽子の農家っぽい猫。
「捕まってるそふとを参照してみた。まずは、鎌を封印だ」
「そうか、旅鴉のろっこんが使えるんだな」
　刀は、触手の隙をついて横から近づく月詠を援護します。
　月詠のろっこん『絵空事』は、月詠の描いた絵に触れたものを絵として封じることができます。
　しかし、生きた動物が触れると封印が止まってしまうのです。
　触手が掴んでいた鎌はふわりと浮き上がり、無事スケッチブックに吸い込まれていきました。
「そして進化能力発動。触手つきの馬鈴薯及び玉葱を吸い込んでみる」
「だが、捕まっている人はどうするんだ？」
　刀が尋ねます。
「本来、触手に捕まってる者がいる場合野菜を封印できない。それは今も変わらないのだが、野菜と絵の間に力を発生させることで野菜を引っこ抜こうという事だ」
　修も頷きました。
「なるほど、皆と協力して退治しよう。収穫だ」

　月詠は絵を持ったまま触手に触れ、野菜から離れていきます。
「触手にも伸ばせる限界があるだろうし。勿論触手も抜かれまいと必死に這いつくばるだろうから、動きの鈍ったところを他の者に収穫してもらおう」
「引っこ抜けばただの野菜だ」
　修が遠心力やリーチも利活用してスコップを振り、触手を叩き切ります。
　アルレッテの涙を見てカッとなったレイリーも、怒りに任せ、数度根元を鎌で斬りつけ、ある程度の所で体重を乗せて蹴りを食らわせます。
「収穫されたことを後悔しないくらい美味く調理してやっから、大人しく倒されろよ」　
「これでどう？！」
　蒼も、ついに本体に一撃を食らわすことに成功しました。
「野菜を傷つけずに収穫したい、多分地面から掘り起こせたら収穫だと思うんだよな～」
　刀は加速しながら考えます。
「加速しながら地面掘るか？　駄目元でやってみるか」
「掘るなら、これを使え」　
　耕作老人にスコップを渡され、刀は高速で地面をザクザクと掘りまくります。
　　
　月詠のろっこんに、刀と修のスコップワーク。
　さらに美咲紀の鍬が、蒼のナタが、樹のナイフが発生元を集中攻撃します。
　アケーチの鞭とレイリーの蹴りも効いて。
　そんなみんなの攻撃が、巨大野菜の力を奪っていきました……
　シュルルル……
　ついに、ちぎれた触手たちは月詠のスケッチブックに吸い込まれていったのです。
「ナタ縛り成功。私たちの勝ちね」
　蒼は満足そうに言い。
「絵の中の農家さんもホクホクだな」
　そう言いながら月詠はスケッチブックを閉じるのでした。

「アル！」
　真っ先にレイリーはアルレッテに駆け寄りました。
　両の腕を掴んで低い位置にある肩に頭を乗せて。
「はー……ったく、頼むからあんま心配させんなよ」
「うん、ごめんね」
　悪びれることなくアルレッテは言いますが、その目からはまだボロボロ涙がこぼれています。
　そんなアルレッテの目元を、野生的な外見に似合わぬ優しい手つきでレイリーは拭いました。
「大丈夫か？　痛えのか、それとも気持ち悪かったのか？」
　目を伏せながらアルレッテは答えました。
「大丈夫、ちょっと目に沁みただけだよ」
「沁みた……？　って、玉ねぎが原因かよ！　焦らせんなよ……」
　一瞬ぽかんとしたレイリーは、ようやく涙の理由を理解したのでした。
「ふふ、本当に心配かけたみたいだ」
　アルレッテの笑顔は、レイリーの目に雨の後の虹のように映りました。

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