春野菜収穫！｜リアクション

春野菜収穫！

　そふとから連絡を受けた八神修は「今行く」と返事をし、素早く準備を始めていました。
　台所から何やら持ち出し、車庫で整備時に使うゴーグルと庭弄り用スコップを取って自転車に飛び乗ります。
「シュー君も、畑さんとこなのです？」
　そこへやってきたのは同じ星ヶ丘寮の友人、椿美咲紀でした。
「美咲紀もか」
「日々家庭菜園で野菜作りに勤しむ私にとってこれは見過ごせぬゆゆしき事態。お野菜は美味しく食べてナンボのモノ。早々に仕留めなくちゃならないのです」
「そうだな、まず畑さん達を担いで脱出させなくては」
　美咲紀の言葉に頷く修ですが。
「長引けば、新ジャガのデンプンとか、新玉葱の瑞しさとかが失われて美味しくなくなってしまうのです!」
「……そこか」
　美咲紀の野菜好きに苦笑しつつ、急ぐことにしました。
　二人は全速力で自転車を飛ばし、九夜山にやってきました。
　
「畑さん、まずは安全なところへ」
　修は耕作に肩を貸し、そふとと二人で安全な場所に誘導します。
「すまんのう」
「大丈夫です、任せてください」
「ケガはないですか？　怪我した人はろっこんで治療しますですよ」　
　美咲紀は、触手から解放され呆然としている璃亜に声をかけます。
「ありがとうございます……」
　花を手に持ち、舞い始めると美咲紀のろっこん『舞花の祈り』が発動。
　璃亜の傷やあざはみるみるうちに消えていきました。

「治療も終わりましたし収穫です。私の獲物は鍬なのです。クワ。農作業中下手すると足を怪我する事もある、ポールウェポンですよ。地中のジャガイモを収穫するのに役立ちますとも」
　涙予防・飛石防御にゴーグルをつけ、美咲紀は鍬を構えます。
「ヘンな触手を鍬の一撃で斬り落とすのです。サブ武器は園芸用こて(小型のスコップ)です」
　修も葱液と飛散土砂埃対策にゴーグルを装備し、スコップを手に異変の中心となっている個体を確認します。
「拡大するなら発生源がある筈だ。それを叩けば拡大も止まるし全体の鎮圧も早くなる」
　修はケチャップを取り出しました。
「シューくん？　人間、食欲が一番強いですが、味付けにはさすがにまだ早いのです。私も肉じゃが作る準備はして来ましたが」
　いぶかしむ美咲紀に、修はケチャップを構えながら言います。
「発生源個体をケチャップでマーキングし周知するんだ」
　水鉄砲の様にぶしゃっ！　と修は巨大な玉ねぎをめがけケチャップを飛ばしました。
「血じゃないから問題ない。まあ一寸シュールな血まみれ巨大玉葱になったが……」
「あれが発生源なのね！」
　それを聞いた樹はナイフをそちらに向けて集中攻撃します。

「敵密度の薄い場所から突破口を空けよう」
　修は細い触手をスコップで殴り、切って叩き切ります。
「側面や先端は刃物と同等だ」
「後は新ジャガと新玉葱の収穫を待つばかりのこの状況、美味しく食べられてくださいなのです」
　鍬を振り回し触手に迫る美咲紀ですが。
　すり抜けた触手に、あれよあれよといううちに腕を絡め取られ鍬を奪われて、吊り上げられてしまいました。
　触手はうねうねと、美咲紀の胸を狙ってきます。
「えっちい攻撃？」
「美咲紀、大丈夫か！」
　修がはっとして声をかけますが。
　しかし、俯いた美咲紀の口から漏れたのは悲鳴ではなく、笑い声でした。
「くくく、知っていますか玉葱って生でも充分食べられるのです!!　隙を見て巨大玉葱の皮を剥ぎ齧り付いてやりましょうとも」
　その言葉通り、目の前にあった玉ねぎの皮を口で毟り取り、美咲紀はがぶりと玉ねぎにかじりつきました。
「もぐもぐするのです。美味しく食べられるが良いのです!!」
「……流石だな」
　見上げて感心する修でした。

このページにイラストを設定する