春野菜収穫！｜リアクション

春野菜収穫！

　ほしびとのアルレッテ・ザメニスとレイリー・マクティーラは、一緒に畑の近くを歩いていました。
　アルレッテは、いつもは尖ったエルフのような耳ですが、寝子島では人と同じ形になっています。
　デコルテのあいたユニセックスなニットセーターを着て、山の植物を観察しながら歩いていました。
　レイリーは狼の半獣人らしく頭から黒い狼の耳が生えていますが、帽子で隠していました。
　その帽子の中の耳がぴくりと反応します。
「何だ騒がしいな……ってなんだアレ」
　触手を伸ばす野菜に気づき、星幽塔で見た植物に思いを馳せます。
（こっちにもそういう植物がいるのかよ。なんつーかアルが興味持ちそうだな）
　影の樹に比べりゃなんてこたねえな、と思ったものの、アルレッテが心配になり、
（釘さしとくか）
「おいアル、無暗に近づくなよ」
　しかし、声をかけようと振り向くと、そこにアルレッテはおらず。
「……って、おい！」
　もう一度巨大玉ねぎに目を戻すと、アルレッテが宙に吊られた姿があったのです。
「くそッ！　アルのやつ何捕まってんだ！」

　時々無鉄砲になるアルレッテは、騒ぎにつられて巨大野菜に近づいていたのでした。
（あんな風に動く植物なら何かの素材になるかな？）
　好奇心に駆られてふらっとレイの側を離れた所で、不意に足が地面から離れました。
（……ッ！）
　とっさのことで声も出せずに息を飲み。
（これは……困ったな）
　無駄なあがきだろうな、と思いながら身じろぎできないか試してみたけれど。
「……うん、ぴくりともしないね」
　そこでアルレッテは、レイリーがこちらを見て怒鳴っていることに気づきました。
「ああ、でもレイが気づいてくれたなら安心だ」
（この子も殺す気はないみたいだし、助けてくれるのをゆっくり待っていようかな）
　思慮深く芸術方面に優れるけれど、自分の生活には無頓着で、人の助けがないと生きていかれないアルレッテです。
「けど……すこし、くすぐったいというか」
　
　アルレッテを助けようと、レイリーは身を低くして勢いをつけ、しなやかな野生の獣の様に地面を蹴りジャンプしました。
　そのまま触手を殴りつけます。
　しかし、触手には傷一つつきません。
「チッ……意外と固えな。つうか割と上にいったか」
「これはピンポイントで狙うよか根元から切り落としたほうが早えか？」
　レイリーは触手の生え際を集中的に攻撃し始めました。

　抵抗することを完全に放棄して戦っているレイの姿を眺めているアルレッテですが。
　触手が肌を這う感触に、身を震わせ時折息を吐きました。
「んっ……大事に育てられたからこんなになつっこいのかな？　それにしても、は……ぁっ、もう少し、距離をとって貰えると嬉しいんだけど」
　ですが触手は聞く耳を持ちません。
　そのうちに、アルレッテの服を引っ張り始めました。
　これにはアルレッテもさすがに無抵抗というわけにはいかず、
「……脱がす気かい？　ちょっとそれはいただけないかな」
　手は絡みつかれて動かせないので、白い歯で、触手に噛みついて訴えてみました。
　そうした瞬間。
「……なんだろうこれ、凄く目に染みる」
　それに加えて色んな人が攻撃する度、どんどんその症状はひどくなっていきます。
　手で拭うこともできず、アルレッテはひたすら涙をこぼしました。

　一方レイリーは、触手が使ってくる鎌をギリギリのところで避け、鎌を掴んでいる根元にカウンターで蹴りつけます。
「借りるぜ」
　たまらず触手が落とした鎌を、そう言って拾い上げました。
（アルは大丈夫か）
　視線を向けたところで、アルレッテの泣いている姿が目に入りました。
「！？」
　レイリーは、カッと頭に血が上るのを感じました。
（泣いてる……？　痛いのか？　苦しいのか？　あんなに涙こぼして……）
「ふざけんなよッ……！」
　湧き上がる怒りに、渾身の蹴りを食らわせます。

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