春の！プレゼント交換会｜リアクション

春の！プレゼント交換会

■困る顔すら嬉しくて
　愛想がよく、社交的。
　それに可愛らしい容姿を持つ新田樹。
　ともすれば、正統派優等生のレッテルを張られて仕方なし、という彼女であったが。
（……とんでもないプレゼントを用意してやろう）
　三度の飯よりスリルを愛し、狡猾さを兼ね備えた樹。
　今回のプレゼント交換では相手が驚くものを準備してやろう、と張り紙の前で一人ほくそ笑んでいた。
（反応が見れないのは残念だけどね）
　さぁて、何にしようかな……そう思った瞬間。樹は人の気配を感じ、純真無垢な笑顔に切り替えた。
　眼鏡をかけた黒髪の女性がどこか憤りながら歩いている。
（あんな表情を見せてくれるのかな？）
　樹の心の中は邪な妄想で溢れかえっていた。

　樹が選んだ購入先は、デパートのとある売り場。
（貰った人がビックリするような危険物を……）
　それは中学生が一人で来るには敷居が高い、大人っぽいデザインも取り揃えている水着売り場だった。
　まだ４月と言う事で売り場の客はまばらである。
　樹はゆっくりと水着を吟味し始めた。
（どれもインパクトが足りないな）
　冷静な目線で水着たちを分析する樹。
　生半可なものでは、想定する驚きを相手に与えることは出来ない。
（もっとスゴイのを……）
　客が少ないからか、店員の数も少ない売り場を見回すと。
（あ、うってつけの人がいるじゃない！）
　樹はニヤリと浮かべた笑みを仕舞い、その店員に近づいて行った。

「お客様、いかがされましたか？」
　樹が声をかけたのは、フロアマネージャーと書かれた名札を付けた壮年の男性店員だった。
「あの、水着売り場に店員さんが少なくて……ちょっと聞いてもいいですか？」
「はい、なんでしょう」
　穏やかな眼差しの店員。しかし、次の瞬間彼の表情が凍り付くことになる。
「この水着より、もっともっと布地が少ないのを探してるんです！」
　樹がバッと提示したのは、それでもハイレグ際どいビキニ水着。
「お、お客様？」
　本当ですか、と視線で訴えかけるおじさん店員に、樹は愛らしい笑みと共に頷いた。
「か、かしこまりました。それでは、係のものを……」
「おじさんは、このデパートの店員さんじゃないんですか？」
　キョトンとした、あどけない表情で小首を傾げてみせる樹。
　チラリとレジを見れば、本来の水着売り場の係員は他の客を接客している様子。
「え、えぇと……布地が少ないもの、ですね……」
「はい！」
　元気いっぱいに頷く樹の表情に負け、おじさん店員は女性水着売り場内を見回すのだった。
　
　困惑しながら水着を探す店員の姿を、溢れだしそうな笑みを抑える。
　プレゼントを渡した後の相手の表情が見れないのは残念なことだ。
　だが、この光景を見れただけでもよしと思おう、と樹は一人頷いた。
「お客様、こちらのコーナーでしたら、お客様のご要望に応えるかと……」
　店員の案内についていく樹。
　そこには壮絶セクシィな、水着なのか布の切れ端なのかわからない水着たち……！
「それでは、ごゆっくりお選びください」
　やっと解放される、とお辞儀をする店員に。
「ねぇ、店員さん。こっちとこっち、どっちが人気ありますか？」
　右手に白のマイクロビキニ、左手に紫のV字水着を持ち、小悪魔的な表情を浮かべる樹の姿。
「い、今、詳しいものを呼んでまいりますっっ！」
　有無を言わさず脱兎の如く。おじさん店員は樹を残しレジへと駆けていくのだった。
　両方の水着を手に持ったまま。キヒヒ、と笑う樹だった。

　こうして、樹は真っ白で布地の少ないマイクロビキニを手に入れた。
（あーー、楽しかった！）
　レジを担当する女性店員も困惑を隠せていなかった。
　セクシィなプレゼントを手に、思い出し笑いを浮かべながら樹は自宅へと帰った。