春の！プレゼント交換会｜リアクション

春の！プレゼント交換会

■まだ見ぬファンへ
　皆様、週刊少年ニャンプをご存じだろうか。
　毎週発行される漫画雑誌であり、子供は勿論、多くの大人も魅了してやまない漫画の宝石箱である。
　ニャンプで大好評を得て、アニメ化！　映画化！　今をトキメく豪華俳優陣による実写映画化！　と日本を離れ世界にまで名を轟かせる漫画が生まれたことは一度や二度ではない、国民的漫画雑誌である。
　そんな週刊少年ニャンプで『猫の奇妙な散歩』なる漫画を只今連載真っ最中！　なのが工藤来夢。若き女流漫画家だ。
　元々は寝子島外で生活をしていた来夢だが、寝子島で起こるフシギ現象の噂を聞きつければ「マンガのネタになるはず！」と、早速寝子島に引っ越してきた次第。

　さて。週刊少年漫画雑誌の連載は、まさに戦場である。
　ネームを作り、担当と綿密な打ち合わせ。
　こだわりが強く、己の作品に情熱をかける来夢だからこそ、担当とのやりとりに熱くなり戦いを挑むことも多々ある。
「ファンに人気のあるキャラを作品で優遇するのと、ファンサービスは別問題でしょ！」
　声を荒げる来夢に、隣の部屋で彼女の原稿を手伝うアシスタント達は（またか……）といった表情を浮かばせ合う。
　連載分を書きあげ、次の話の打ち合わせは難航してる模様。
　アシスタント達がため息をつけば、バタン！　と勢いよくドアが開いた。
　そこには興奮した表情の来夢。
「ちょっと取材行ってくるわ！」
「い、いってらっしゃいませ～」
　アシスタントの言葉を背に、来夢は部屋を飛び出すのだった。

（まったく……）
　担当の言葉にぶつぶつ呟きながら来夢は寝子島の街を歩く。
（何かインスピレーションを刺激するものはないかしら？）
　そう思っていると、無表情気味ながらも左手に猫のパペットを携えた少女とすれ違い。
（流石、寝子島ね！）
　と感動すら覚える訳で。
　更に歩みを進めると、来夢は一枚の張り紙に目を引かれた。
（あら？　プレゼント企画？）
　星ヶ丘教会が主催するプレゼント交換会。
（せっかく寝子島に来たわけだし、参加してみようかしら！）
　来夢は赤いフレームの眼鏡の奥の瞳を細める。
（しかし、何をプレゼントしようかしら？　イラスト付きサイン……ありきたりね、却下だわ）
　せっかくだし、良いファンサービスになるものを……そう考えた瞬間、来夢はピン！　と閃いた。
（ふふ、きっと泣いて喜ばれること間違いないわ！）
　高笑いしたいのを堪えながら、来夢は家へと踵を返すのだった。

　上機嫌で帰宅すると作業部屋に籠る来夢。アシスタント達は困惑の色を隠せない様子。
　手伝いを申し出ても
「大丈夫よ、今日は帰っていいわ！」
　生き生きとした表情の来夢。
「ふふふ、まだ見ぬファンのために描くわよー！」
　閉めた扉の奥から、来夢の声が響き渡るのだった。
　
　翌日。
「来夢さん、これ、どうしたんですか……！？」
「ちょっ！　ちょっと、何勝手に見てるのよ！」
　今日も現れた担当の言葉にハッとし、来夢は原稿を担当の手から取り返した。
「凄いです、これ『猫の奇妙な散歩』の第一話の前日の話……ですよね！　最後まで読ませてくださいよ！」
「ダメ」
「なんでですか？　こんなスピンオフ、誰もが待ち望んでるに違いないです、いつ雑誌に載せましょうっ！？」
　興奮した面持ちの担当に、来夢は鼻を鳴らした。
「これは、雑誌に載せないの。ましてや最後まで読ませる義理もないから」
「どういうことですか！？　まさか他の雑誌で……！？」
「ふふふ、ご想像にお任せするわ」
（原価は紙とインクで安いけど、中身には値段がつけられないほどの価値がつくわよ）
　来夢はできたての原稿を、楽しそうに封筒へと仕舞い。
　青ざめる担当の前で、楽し気な笑みを見せるのだった。

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