アナタの中のコドモの自分｜リアクション

アナタの中のコドモの自分

◆素直になれない
　のんびりとした午後の時間を、ロベルトはこの美少年の世話に充てることになる。そのことについて、不満はない。どころか、大歓迎だった。

「君のことは、何て呼べばいいのかな？」
「ともやでいいよ、ロベルト」

　ともや。試しに呼んでみれば、少年は甘く微笑みを返してくれる。ロベルトはまた嬉しくなって、ともやにぎゅーっと抱き着いた。そのまま頬を擦り合わせてスキンシップを図る。こんなことをすれば智也は怒って突き放すのだが、ともやは抵抗することなくロベルトのスキンシップを受け入れて、自分から頬をくっ付けた。

「君は最高だ！」
「そんなに褒めるなよ」

　そうしてスキンシップをしながらはしゃぐ二人。ロベルトはだんだん調子に乗って、ともやの胸をぺたぺたと撫でようとすると、その手はともやの手によってがっしりと掴まれ動きを止められる。

「そういうのは、ダメ」

　拗ねたような顔のともやにロベルトは仄暗い悦びを感じるものの、先程まで喜んでいただけに本気で嫌がっていることが分かる。なんだか申し訳なくなったロベルトの謝罪を最後に流れる沈黙の間に、絵を描く手を止めたのか、小さなロベルトもやってきた。その不機嫌そうな顔も愛らしいとロベルトは感じる。

「絵描いてるんだけど。邪魔しないでくれる？」

　こちらのロベルトは、ふだんの情けないロベルトとは違い自信に満ちていて、強気だった。見せて、とロベルトが言うと、小さなロベルト（以下、ろべると）は自信満々にスケッチブックを差し出した。

「ロベルトには絶対かけないでしょ？」

　たしかにそれは、ロベルトには絶対に描けない絵である。スケッチブックの上に描きだされたそれはいかにも子供らしいそれで、拙い線がロベルトには懐かしく思えた。ロベルトは顔を上げてろべるとに言う。

「……うん。その通りだ、君は天才だよ」
「そんなの、言われなくてもわかってるし！」

　つんと上を向くろべるとの姿は、ロベルトの理想とする美少年の姿そのものであったが、顔がロベルトそっくりなせいかロベルトの心にはあまり響かない。しかし、子供時代を懐かしむ思いがじんわりとロベルトの心に広がった。

「僕も一緒に描いていいかい？」

　頷いたろべるとの反応を見て、ロベルトは筆をとった。ともやは絵を描く二人の姿を興味深そうに眺めている。簡単な犬と、家族の絵だ。ロベルトは少し手を抜こうとしたのだが、それに気付いたろべるとが嫌がったので本気で描く。

「子ども扱いしないでね」
「わかってる、わかってるよ」

　そうしてある程度描き終わって、ともやも退屈しているだろうからとロベルトは冷蔵庫のアイスを三人分取り出した。ロベルトと同じく、ろべるともアイスが好きなのか、美味しそうに食べていた。ともやも美味しそうに食べ勧めるが、途中からロベルトの方へアイスを差し出す。

「ロベルト、アイス好きだもんね」
「え、っと……？」
「口開けて。俺はお兄ちゃんだから、あげる！　えらいでしょー」

　なるほど、とロベルトは得心し、言われるままに口を開けた。美少年の、あーん！　喜ぶロベルトだが慣れたもので、躊躇いなく口を開けて啄む。
　食べ終わったら、また一緒に絵を。子供たちとの休日はあっという間に過ぎていった。

　夕方になって、かえらなきゃ、とともやとろべるとが言いだした。外まで送って、ばいばい、とロベルトが手を振る。ともやは名残惜しそうにもう一回ロベルトに抱き着いて、ばいばい、と返した。
　閉じられた扉。開けたらまだ二人がいる気がして、ロベルトは扉を開ける。
　しかしそこには、誰もいなかった。

「……なあ、俺が寝てる間何かあったか？」

　夜。頭を抱え、智也が起き上がる。智也は随分と針の進んだ時計に顔を引き攣らせながらロベルトに状況を聞いた。あの子供二人が居なくなっていることも気になる。しかしロベルトは、智也の期待に沿わずただ首を振るだけだった。

「いいや、何も」

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