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《彼とぼくらの百鬼夜譚》 月魄の姫君 １
突然太陽が東から西に移動して、人っ子一人いない場所に何の脈絡もなく放り出されたなら、十中八九、ほとんどの者が困惑し、途方に暮れるに違いない。
だが新田 樹は違った。このふしぎな現象に最初のうちこそ驚いていたが、すぐにこの非現実的な出来事から新しい冒険の始まりを予感して、目を輝かせる。
「ほっほ～ずいぶん古めかしい街並みだね。
ねーねー兄さん、そう思わない？」
「……おまえ、順応力高いな」
一緒に登校し、一緒に同じ現象にあった兄の新田 亮があきれ声で言う。亮はまだこの事態に驚いて、混乱している最中なのだ。
しかし褒められたと思ったのか、樹は
「いやーそれほどでも」
と照れたように頭を掻く。
そんな脳天気な妹を見ていると深刻に悩んでいる自分のほうがおかしく思えてくるからふしぎだった。
「これはこれで新鮮だな。さっそく探検しよう、兄さん！
まずはこの香りの出所を探って――」
「いや待て。ふたりで一緒に行動するのは効率が悪い。このにおいと町の探索と、２つを分けてそれぞれで担当しないか？ 連絡は……そうだな、スマホで――」
「スマホ通じてないよ」
樹がポケットから出したスマホの電波のマークがある所をつんつん指でつっついた。
少し操作してみたところ、通話とメールができないだけで、スマホの内蔵機能自体は問題なく動いているようである。
「うーん……じゃあ、２時間後にここで落ち合うというのはどうだ？」
「分かった。んじゃあ私は香りのほうを追うから、兄さんは町のほうをお願い！」
ばいばーい、と手を振って、樹は花の香りがするほうへ走り出す。流れる雲の影に紛れるように、その上空を一羽のハシブトガラスが先行するように追い抜いていった。
カラスは山田 勘三郎のろっこん腹ぺこガラスが発動した姿だった。
（いつもの通学路のはずが、なんかおかしいぞ……と、思ったら、これだ。
やっぱ、俺の知る旧市街じゃねえな）
上空から一望すれば丸分かり。勘三郎は内心ため息をこぼす。
大通りや基本的な道は同じだが、細かい所でちょこちょこと知らない路地や建物が建っているし、空き地が結構多く見える。
そして、おかしなくらい通りに人の姿がない。
家を出たときは朝だったのに、わずか十数分で太陽が西に傾いたのは、可能性として、知らないうちになんらかの外的要因を受けて半日分の記憶が飛んだということもあり得た。それも十分事件だが、別世界へ入り込んだらしい大事件よりはまだマシだろう。
だが上空から旧市街を見て確信した。ここは自分の知る旧市街じゃない。
（んー。とはいえ、どうすっかなあ）
なにしろ、何かやらかして入った自覚がないものだから、元に戻るためにどうすればいいか、見当もつかない。
きれいさっぱり、お手上げ状態だ。
（カラスに上げる『手』なんかないけどな）
そのとき、腹がくるっと鳴った。
勘三郎のろっこんは、変身していると猛烈な速度で腹が減っていくという特徴がある。変幻の維持に膨大なエネルギーを必要とするのだろう。
（いけねえ）
と思う間にもくるるっと鳴る。
限界が近づいているのを自覚して、勘三郎はあらためて地上の様子に目をこらした。先の少女のように、坂道を上に向かって歩いている者が数人いる。ほかの道にいる者のうち何人かも、その坂道を目指して歩いているように見えた。
（何だ？ 何かあるのか？）
分からないが、目的があって行動しているようだ。
坂の上に目を向けたが、特にかわり映えしない普通の住宅街で、見晴らしの良さそうな所に白い洋館があるのが特徴と言えば特徴かな、というだけだった。
（あんなとこに洋館なんてあったっけ？）
――くるるるるっ。
（ああ、くそっ。限界だ）
ろっこんが解ける前にと、勘三郎は降下をする。だが少し遅かったようだ。あと少しで地面というところで唐突にろっこんが解除され、勘三郎は落下した。
「きゃあ！」
突然どさりと音をたてて人が空から降ってきたことにびっくりして、長田 孝明は思わず声を上げていた。
「なんやなんや？ おまえ、どっから現れてん」
その登場を面白がって、華徳井 友幸はポケットに手を突っ込んだまま近づく。
勘三郎は今、答えるどころじゃなかった。地面にぺったり尻をつけて、ぶつけた後頭部を抱えながら痛みに無言でしばし震える。
ようやく痛みが引いて、声が出せるようになった勘三郎は、友幸を見ながら言った。
「……いきなりで悪いけど、何か食い物持ってない？」
あてた手の下で、腹がぎゅるるるるーっと盛大に鳴った。
だが新田 樹は違った。このふしぎな現象に最初のうちこそ驚いていたが、すぐにこの非現実的な出来事から新しい冒険の始まりを予感して、目を輝かせる。
「ほっほ～ずいぶん古めかしい街並みだね。
ねーねー兄さん、そう思わない？」
「……おまえ、順応力高いな」
一緒に登校し、一緒に同じ現象にあった兄の新田 亮があきれ声で言う。亮はまだこの事態に驚いて、混乱している最中なのだ。
しかし褒められたと思ったのか、樹は
「いやーそれほどでも」
と照れたように頭を掻く。
そんな脳天気な妹を見ていると深刻に悩んでいる自分のほうがおかしく思えてくるからふしぎだった。
「これはこれで新鮮だな。さっそく探検しよう、兄さん！
まずはこの香りの出所を探って――」
「いや待て。ふたりで一緒に行動するのは効率が悪い。このにおいと町の探索と、２つを分けてそれぞれで担当しないか？ 連絡は……そうだな、スマホで――」
「スマホ通じてないよ」
樹がポケットから出したスマホの電波のマークがある所をつんつん指でつっついた。
少し操作してみたところ、通話とメールができないだけで、スマホの内蔵機能自体は問題なく動いているようである。
「うーん……じゃあ、２時間後にここで落ち合うというのはどうだ？」
「分かった。んじゃあ私は香りのほうを追うから、兄さんは町のほうをお願い！」
ばいばーい、と手を振って、樹は花の香りがするほうへ走り出す。流れる雲の影に紛れるように、その上空を一羽のハシブトガラスが先行するように追い抜いていった。
カラスは山田 勘三郎のろっこん腹ぺこガラスが発動した姿だった。
（いつもの通学路のはずが、なんかおかしいぞ……と、思ったら、これだ。
やっぱ、俺の知る旧市街じゃねえな）
上空から一望すれば丸分かり。勘三郎は内心ため息をこぼす。
大通りや基本的な道は同じだが、細かい所でちょこちょこと知らない路地や建物が建っているし、空き地が結構多く見える。
そして、おかしなくらい通りに人の姿がない。
家を出たときは朝だったのに、わずか十数分で太陽が西に傾いたのは、可能性として、知らないうちになんらかの外的要因を受けて半日分の記憶が飛んだということもあり得た。それも十分事件だが、別世界へ入り込んだらしい大事件よりはまだマシだろう。
だが上空から旧市街を見て確信した。ここは自分の知る旧市街じゃない。
（んー。とはいえ、どうすっかなあ）
なにしろ、何かやらかして入った自覚がないものだから、元に戻るためにどうすればいいか、見当もつかない。
きれいさっぱり、お手上げ状態だ。
（カラスに上げる『手』なんかないけどな）
そのとき、腹がくるっと鳴った。
勘三郎のろっこんは、変身していると猛烈な速度で腹が減っていくという特徴がある。変幻の維持に膨大なエネルギーを必要とするのだろう。
（いけねえ）
と思う間にもくるるっと鳴る。
限界が近づいているのを自覚して、勘三郎はあらためて地上の様子に目をこらした。先の少女のように、坂道を上に向かって歩いている者が数人いる。ほかの道にいる者のうち何人かも、その坂道を目指して歩いているように見えた。
（何だ？ 何かあるのか？）
分からないが、目的があって行動しているようだ。
坂の上に目を向けたが、特にかわり映えしない普通の住宅街で、見晴らしの良さそうな所に白い洋館があるのが特徴と言えば特徴かな、というだけだった。
（あんなとこに洋館なんてあったっけ？）
――くるるるるっ。
（ああ、くそっ。限界だ）
ろっこんが解ける前にと、勘三郎は降下をする。だが少し遅かったようだ。あと少しで地面というところで唐突にろっこんが解除され、勘三郎は落下した。
「きゃあ！」
突然どさりと音をたてて人が空から降ってきたことにびっくりして、長田 孝明は思わず声を上げていた。
「なんやなんや？ おまえ、どっから現れてん」
その登場を面白がって、華徳井 友幸はポケットに手を突っ込んだまま近づく。
勘三郎は今、答えるどころじゃなかった。地面にぺったり尻をつけて、ぶつけた後頭部を抱えながら痛みに無言でしばし震える。
ようやく痛みが引いて、声が出せるようになった勘三郎は、友幸を見ながら言った。
「……いきなりで悪いけど、何か食い物持ってない？」
あてた手の下で、腹がぎゅるるるるーっと盛大に鳴った。
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
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- 2017年07月30日
- 参加申し込みの期限
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- 2017年08月06日 11時00分
- アクション投稿の期限
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- 2017年08月06日 11時00分
