「それじゃあ行ってきます」
「行ってらっしゃい。……気をつけてね」
いろいろあった1年でしたが、4月になって
長田 孝明ははれて寝子島中学校1年生になりました。
成長を見込んでの、少し大きめな制服姿で新しい学校へ向かいます。
毎日通っている道も、こころなしか初めて通る道のように目新しく――…………
「――あれ?」
孝明は足を止め、周囲を見渡しました。
本当に見覚えのない場所だったからです。
いえ、道は見慣れたものでした。大通りも、そこから伸びる路地も、見知ったものです。
しかしその両側に並ぶ店は、ほとんどが見覚えのないものでした。
なかには知っている店名もありましたが、店構えが古く、知らない看板が立っていたりします。
しかも、まだ午前中だったはずなのにもう太陽が西に傾いて、壁も家も、どこもかしこも西日に染まっていました。
「え? ええ?」
きょろきょろ道の左右を見ながら歩いていると、もうひとつおかしなことに気付きました。
だれも通行人がいないのです。
「うそ……」
急に心細くなってきた孝明は、家に戻ろうとUターンして駆けだします。そして角を曲がったところで、反対側から来ていた人にぶつかってしまいました。
「うわ!」
「きゃっ! ――ご、ごめんなさいっ。ぼく、前を見てなくて……」
あわてて顔を上げてぶつかった相手を見ると、見覚えがありました。
服や靴から少し前にすれ違った男の人ということは分かりました――そのときは顔まで見ていませんでした――が、ほかにも見覚えがあるような気がします。
どこでだろう? と考えて、思い当たりました。
「前に学校で助けてくれた、占い師のおにいさん!」
「うらな……?
まあ、間違っていーひんけどな。
華徳井 友幸(かでい ともやす)いうんや、覚えとき。
ところで坊主、ここ、ちょおおかしないか? おれ、最近越してきたばっかやけど、ここ、こんなさびれた場所ちゃうやろ? 人影もあらへんし」
「あ、はい。ぼくも今気付いたところです。いつもはもっと人がたくさんいて、活気のある場所なんですが」
ぐるっと辺りを見回した孝明の鼻を、そのとき甘い香りがくすぐりました。
(なんだろ? 花の香り? なのかな?)
植物にはあまり詳しくなくて、何かまでは分かりません。
ただ、ほんのり甘くて、心をやわらげてくれるような優しい香りで、嫌な感じはしませんでした。
見ると、友幸も鼻をひくつかせています。
「向こうの坂の上からしとるみたいやな。――行ってみるか」
「あっ、おにいさん」
「なんや。ほかにアテもあらへんやろ?
もしかすると、おれらのほかにも人見つかるかもしれへんしな。そいつらも、あのにおいをアテに向こうとるかもしれへんで?」
友幸の言葉には説得力がありました。
それに、ここへひとり置いて行かれるのも怖くて。孝明は歩き出した友幸について、一緒に坂を上がり始めたのでした。
こんにちは。またははじめまして。寺岡志乃といいます。
今回から『百鬼夜譚シリーズ』として始めていきたいと思います。主に黄昏時~夜が舞台になります。
今回は「究明編」で、探索が主になります。「解明編」は次回以降となりますのでそのつもりでアクションをかけてください。うまく行動すれば2回、でなくとも3回で1話が完結する予定です。
そして今回ですが、PCたちはいつの間にかこの世界に取り込まれています。今のところ、危険はありません(展開次第なので、この先は分かりません)。
まずは元の世界へ戻るため、探索をして情報を集めていただけたらと思います。
●舞台1
旧市街です。ただし、かなり古ぼけた感じがしています。
とはいえ、本物の旧市街ではありませんから、細部もいろいろと違っているかもしれません。
また、ガイド本文では人がいないように見えますが、店の中などを覗くといることもあります。
町のなかを探索する人は、そのつもりでアクションをかけてください。
●舞台2
孝明たちが向かっている坂の上には2階建ての洋館があります。なかには人の気配がありますが、住人のほとんどは非協力的です。
暴力をふるわれることはないでしょうが、こちらを探索する場合、見つからないようにしたほうがいいかもしれません。
また入り口の柵には鍵がかかっていますので、入るにはどうにかする必要があります。
●登場NPC
長田 孝明(おさだ たかあき)
『イチョウの木の下で』『……何かがいる!』シナリオに登場。寝子島中学校1年生。
故あって両親は他界しており、叔母夫婦と暮らしています。境遇のせいで大人びて、遠慮がちなおとなしめの少年ですが、聡明で行動力もあります。
華徳井 友幸(かでい ともやす)
『……何かがいる!』シナリオに登場。関西弁を話す外見年齢20代前半の青年。甘党。
バイトで辻占い師や祓い屋をしています。(風水、神道系)
試験管で白狐(3本尾)を飼っていて、使役しています。今のところ、光源がわりくらい。
明るく、人好きのする笑顔と屈託のないおしゃべりで一見つきあいやすい性格のように思えますが、仕事に関してはシビアな面があります。
あと、相手が女性の場合は大抵において「美人さん」と呼びます。
●持ち込みアイテムについて
皆さん、どこかへ向かっていて(学生の場合学校です)、その途中で迷い込んだということになります。
持ち込みは、持っていてもおかしくない物にしてください。
また、ろっこんは使用可能です。
それでは、ご参加お待ちしております。