《彼とぼくらの百鬼夜譚》月魄の姫君　１｜リアクション

《彼とぼくらの百鬼夜譚》月魄の姫君　１

「柵の入り口はここだけだったよお」
　遥斗とふたり、周辺の探索を終えて戻ってきた瑠樹は孝明たちに報告をする。
「館のほうは、裏口があったけど。あと、おばさんのメイドさんが何人かいたよ。みんな同じ格好してて、顔もそっくりで、全然見分けつかなかった」
「武器を携帯しているようだった」
「えっ？　武器、ですか？」
　孝明は驚いて遥斗に訊き返す。
「分からない。ただ、庭のあるほうへ向かっている者たちはエプロンのポケットがふくらんで、重みで下に下がっていた。そして右手に何か長い物を握っていたんだが、体に隠れてよく見えなかった。ひとりは包丁のような物を握っているように見えた」
「うす暗いから、よく見えなかったんだよぉ」
「そう。でも包丁って、物騒だよね。御剣さんたちが見つかったからじゃないといいんだけど――どうかした？　瑠樹くん」
　何か考え込んでいるように見えて訊いたが、瑠樹は「なんでもない」と言うように首を振って返してきた。
　そのとき、ざあっと強い風が坂道の下からのぼってきた。
　ざわざわと月桂樹の木が枝をこすり合わせ、葉を風に散らす。
「いやな風やな」
　坂道を見下ろして、友幸が言った。
「いやな予感がビンビンするで。過去の経験からしてこういう勘が働くときは、従ったほうがええんよなあ」
　その気持ちは遥斗や瑠樹も分かった。
　彼らの前、友幸はポケットから試験管を取り出して、きゅぽっとゴム栓を引き抜いた。なかから小さな白狐がふわりと出てくる。その身から輻射する光は小さかったが、日没で闇色を強めたなかではとても明るく、輝いて見えた。
「きつねさんだぁ」
　ふわふわとホタルのように舞う白狐に、瑠樹は手を伸ばす。
「チィちゃんや。かわいいやろ。
　さて。夜んなったし、ここでは歓迎されてないようやから、どっか朝まで過ごせる場所見つけんとな」
「あ、それなら」
　チィちゃんを両手にちょこんと乗せて、瑠樹が言う。
「オレ、さっきいいとこ見つけたんだぁ。向こうの家ね、空き家みたいだから入っても怒られないと思うよぉ」
「おお、ナイス」
　「こっちだよぉ」と案内する瑠樹の後ろに続いて、全員でその空き家へ向かう。
　遥斗は刀の荷物を持ち上げ、自分のと一緒に肩に担ぎながら、ふと何か聞こえた気がして坂の下に視線を流した。
（……何だ？）
　祭り囃子のような音楽がかすかに聞こえる。そして、白っぽい黄色い光。ひらひらとひるがえっているのは、旗か？
（光のなかに、何か……）
「おえ！　そこで何突っ立っとるねん。はよきぃや」
「あ、ああ……」
　友幸に急かされて、そちらへ向かう。

　だんだんと強まる風。
　ざわざわと威嚇のように葉を鳴らす木々。
　雲は急速に流れ行き、空は闇色を深める。

　その空に、月の姿はなかった。

『《彼とぼくらの百鬼夜譚》月魄の姫君１・続』

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あとがき

担当マスター：寺岡志乃
ファンレターはマスターページから！

こんにちは、またははじめまして、寺岡といいます。
当シナリオにご参加いただきまして、ありがとうございました。
お待たせしてすみません。

皆さん、意欲的に活動してくださいましたので、かなりの情報が出たのではないかと思っています。
次回はこの直後のスタートになるかと思います。
できるだけ早くガイドを出そうと考えていますので、引き続きよろしくお願いいたします。

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