【星幽塔】今日、どう過ごす？｜リアクション

【星幽塔】今日、どう過ごす？

「くっそ、足元見やがって……！」
　流れるような眉を思い切りひそめ、肩を怒らせずんずん歩く美しい女性の姿があった。
　しなやかな女豹のような彼女はティオレ・ユリウェイス。気儘な盗賊稼業だ。彼女の盗賊としての腕前は本来確かなのだが、最近はスランプ気味。踊り子や軽業師などをしてその日の糊口を凌ぐ事も多い。
　しかし今日は違っていた。本業がうまくいき、盗品をたくさんゲット出来たのだ。これならしばらくは働かなくてもいいとほくそ笑みながら故買屋にお宝を持ち込んだのだが……故買屋も然る者。彼女の裏事情を丹念につつき、二束三文で買い叩いたのだ。

「あんの狸親父！　○×△………！！！」
　ティオレは道行く人がぎょっとする言葉で罵る。盗品を売って荷物が軽い、財布も軽い、ああ畜生！
　怒りに燃える青い瞳をぎらぎらさせながらティオレは辺りを見回す。すると酒場の看板が目に入った。
（あーもうくさくさする！　こんな時は踊るに限る！）
　ティオレはポニーテールを揺らしながら酒場に一直線に向かっていった。

「いらっしゃ……」
「水！」
　酒場の主人の言葉を遮るように言うと、ティオレはカウンターにどかりと座った。
　実はティオレは下戸で一切酒は飲めない。混んでいるカウンターでいらいらしながらティオレは水を待った。水を飲んだら酒場のステージで一踊りしてやろうと思っていたのだ。そしてようやく目の前に来たグラスをひっつかむと、クイッと一息に飲み干したのだが。
「あ、それ俺のだ姉ちゃん！」
　隣の男が慌てて言った時には遅かった。タン、とカウンターにグラスを置いたティオレの目は―――据わっていた。

　ティオレは突然ガタン！　と立ち上がり、酒場の奥に突き進んだ。そして小さなステージに立つと、挑戦的な瞳で周囲の客を見回した。酒場というのは酒があり、女がいて、音楽があるものだ。今も客の求めに応じて何人かの奏者が曲を奏でていたのだが、ティオレの姿を見て音楽をやめた。酔客がステージに飛び入るのはよくある事だし……何よりティオレが美しかったからだ。
　酒場の視線を一身に集めたティオレ。彼女はその美しい濡れた唇に笑みを載せると、タンタンと足でリズムを取りながら華麗に踊り始めた。
　心得た物で奏者達はすぐにティオレの踊りに音楽を合わせ始める。ティオレは艶やかなポニーテールを揺らしながら、時には観客に誘うような視線を送り妖艶に踊り続けた。―――濃密な音楽、卑猥なヤジ、腰が熱くなるような下卑た視線、最高じゃないの！
　熱くなる。心も、体も。ティオレは己の世界にトランスしながら、１枚、１枚と自分の服を脱ぎ始めた。
　投げ入れられるティオレの衣服にどっと湧く酔客。美しい肢体を徐々に見せるティオレ。何も考えられなかった。ティオレはとうとう一糸纏わぬ姿になった。そして観客達の視線を釘付けにしながら、汗に濡れた肌を惜しげもなく晒し、ステージで踊り続けた。

　目が覚めたのは知らない小部屋だった。
「いたたたた……」
　ズキズキする頭を押さえ、ティオレは起き上がった。
（ここは……酒場の控え室？　ホールにいたはずなのに）
不思議に思いながらティオレはふと自分の姿を見る。そしてぎょっとした。かけられた毛布の下は、見事に真っ裸だったからだ。
「あっちゃ～……」
　ティオレは形の良い胸も露わに思わず天を仰いだ。記憶は飛んでいるが、どうやらやってしまったらしい。だから酒は飲まないようにしてるのに。
　二日酔いに痛む頭を抱え、途方に暮れるティオレだった。

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